第69期 創作教室を受講された、志津栄子さんが『由佳とかっちゃん』で、第23回ちゅうでん児童文学賞・優秀賞を受賞されました。おめでとうございます。
志津栄子さんに受賞のことばをかいていただきました。
子どもの声を聞いて書く 志津栄子
初めて書いた作品「また明日」を「日本児童文学」に投稿しました。そのとき書いていただいた温かい評に涙があふれ……。私の原点、物書き修行の始まりです。
二つ目に投稿したお話が「由佳とかっちゃん」でした。長編にしたらとアドバイスをいただき、私はせっせと物語の続きを書きました。第69期創作教室に参加したのもその頃でした。皆さまから貴重なご意見をいただき、この作品を仕上げなきゃと思ったものです。でも、悲しいことに、私には長編を書き上げる筆力というものがありません。
創作教室の後、ひとりになって困っていると、ふっと由佳の声が聞こえてきました。
由佳は言います。「うちはかっちゃんのことが好きなんや。けど恋とはちゃう。そやから好きって言葉は書かんといてな」と。私が苦心して書いたセリフに「そんなの言いたくないよ」とダメ出しをし、「別れた父さんに会ってみたいねん」なんて無理難題を言い出す始末です。だからときどき由佳とけんかして、机の引き出しに閉じ込めたりしました。すると今度はかっちゃんです。かっちゃんはやんちゃしているみたいにみえるけど、本当は優しい。あっ、書かなきゃ。そんなことの繰り返し。苦しくて楽しい日々でした。
楊行季一杯の原稿を書いて一人前と誰かが言っていました。今ならメモリスティック一本というところでしょうか。それなら私はお話を百個書こうと決めました。はちゃめちゃでもいいんだと、自分を励まし、書いて書いて書きまくりました。
百個の物語から飛び出してくる子どもたちの個性豊かなこと! 私のことを書いて。おれを忘れるな。とことん向かい合う毎日です。
書き続けることで出会えた素敵な人たち。このような素晴らしい賞をいただけたのも、皆さまのおかげと感謝しています。この先に何があるんだろう。あと一歩向こうまで行ってみたい。今はそんなわくわくした気持ちでいっぱいです。