藤田のぼるの理事長ブログ

2022年10月

84、インボイス制度について(2)(2022,10,25)

【前回の続きです】

・前回は、17日の勉強会で学んだことなどをもとに、インボイス制度の仕組みについて書きました。今回は、では具体的に、これにどう対応したらいいのか、という、言わば実践編になります。

 今のところ、まだ限られた出版社ですが、「アンケート」という形で、インボイスに登録するかどうかを尋ねてきたところがあるようです。僕自身も、毎月本の紹介を書いているところから、この1月にそうしたアンケートが送られてきました。僕はまだ回答を保留しています。ただ、これから登録の期限である3月に向けて、そうした問い合わせが多くの出版社から送られてくることが予想されます。

・結論的にいえば、「今のところ、すぐに登録する予定はありません」と答えるか、「今後、登録のプラスマイナスを見極めて判断したいので、しばらく保留します」というふうに答えるのがベターかと思います。但し、売り上げ(印税等の著作権収入や講演料などの合計)が1000万円を超えて、すでに消費税を納めてきた方の場合は、登録しない理由はないと思います(但し、後で述べる個人情報の問題は残ります)。

【すぐに登録しない方がいい理由は】

・「適格請求書発行事業者」に、すぐに登録しない方がいい、もしくは保留した方がいい理由ですが、登録しないからといって、出版社から急に仕事が来なくなる、といったことはまず考えにくい、ということです。これが、例えば運送業者のような場合、小さい会社で免税事業者でインボイスに登録しないところがあれば、他の(登録した)規模の大きい運送業者に乗り換えられてしまう、といったこともあり得るでしょう。また、例えば雑誌のライター的な仕事とか、図鑑などのカットを描く絵描きさんとかの場合は、(言葉は悪いですが、取り換えの効く仕事という要素が強いと思われ)そういうこともなくはないように思います。ただ、相手が作家の場合は、そもそもほとんどの人が免税事業者だし、あなたに払う消費税が控除されないから他の作家に依頼します、というようなことは、考えにくいと思います。

 そして、実は、この制度には三年間の「移行措置」というのがあって、インボイスに登録していない相手に支払った消費税についても、三年間は一定の割合で控除が認められます。ですから、あわてて登録しなくても、少なくとも三年間はある程度の猶予はあるわけです。

【もう一つの問題は……】

・ここまで書きませんでしたが、このインボイス制度の発足については、特に文化団体などからは、もう一つの問題が指摘されています。それは、登録した会社や個人のリストが、国税庁のホームページに記載されるということです。例えば児童文学者協会は前回書いたように、すでに売り上げに拠って消費税を納めていますから、発行業者として登録し、登録番号をもらうことになります。そうすると、それが国税庁のホームページに記載されるので、協会に印税を支払う出版社は、それを見て協会の登録番号を確認し、協会からの請求書と照合して(今まで印税を受け取る際に請求書は必要ありませんでしたが、これからは求められるでしょう)まちがいがないか確かめることになります。協会のような団体とか会社であれば、そこに載っても特に問題はないわけですが、フリーの個人の場合は、特にペンネームの人などで住所が載ってしまうと、個人情報をさらすことになってしまいます。漫画家さんなどは、この点を一番危惧しているようです。ただ、ホームページにどのように記載されるかは、まだ未確定のようではあります。

【さらに危惧されることは】

・ということで、上記のように、少なくとも、いま急いで発行業者に登録することはむしろデメリットの方が大きいと思います。ただ、今後の問題として、何度も書いたように、出版社側からすれば、(登録していない)著者に支払った分の消費税が今後は控除されないわけですから、だったら、「今までは印税に消費税をつけていましたが、これからはつけません」あるいは「消費税分を印税から減らします」というような対応をしてくることは、可能性として考えられます。これについては、個人の問題ではないので、協会としても他団体と連携して対応していきたいと思いますが、もしもそういう申し出などがあった場合には、ぜひ協会に情報をお寄せください。

 以上、本当にざっとしか書けなかったので、前回も書きましたが、勉強会の録画・録音を直接聞きたいという方は、事務局までお申し出ください。

2022/10/25

83、インボイス制度の勉強会が開かれました(2022,10,18)

【3日遅れになりましたが】

・更新日の15日から3日遅れになりましたが、昨日(17日)インボイス制度の勉強会があり、その報告をと思っていたので、今日になりました。ただ、説明が相当長くなると思うので、この問題については、次回(25日)と2回に分けてお話したいと思います。

 「インボイス制度」という言葉、そんなに大きく報道されているわけでもないので、この言葉自体あまり聞いたことがないという方もいらっしゃるかもしれませんが、来年10月から開始されることになっています。「インボイス」というのは「適格請求書」と訳されていますが、そもそも請求書というもの自体、わたしたちにはあまりなじみがないのではないでしょうか。印税や原稿料、講演料などを受け取る時、請求書を出すことを求められることはあまりなかったと思います。しかし、この制度が開始されると、そのあたりが大きく変わってきます。

・ということで、割合急に勉強会が企画されたので、会員の皆さんに通知する機会がなく、とりあえず、理事・監事と部員・委員、評議員(メールで連絡できる方)にお伝えし、協会の顧問税理士である税制経営研究所の西澤税理士にお願いして、リモートでの勉強会を開きました。50名近い参加があり、また今後のことを考え、児童文芸家協会にもお声をおかけし、何人かの参加をいただきました。勉強会は1時間半で、西澤税理士のお話が50分ほど、残りの30分余りが質疑応答でした。  

上記のように、会員の皆さんにお伝えする暇がなかったので、この勉強会については録画・録音をしており、ご希望の方にはお送りできます。事務局までご連絡ください。

【さて、インボイス制度ですが】

・以下は、西澤税理士の説明で理解した内容、またその前にネットなどで仕入れた内容を、僕なりにまとめた形で書きますので、あるいは正確ではない部分があるかもしれません。

・まずどういう人がこのインボイス制度に関係があるのか、ということですが、基本的には印税や原稿料を受け取っている方になります。ただ、今のところまだ本も出ていないので印税は受け取ってないという方も将来的には関係してくる可能性があるわけで、知っておく意味はあると思います。

・実は、このインボイス制度について理解するためには、まず「消費税」というものの仕組みをある程度理解することが必須となります。西澤税理士のお話も、そこからスタートしました。 わたしたちが印税を受け取る際、例えば10万円であれば、これに10%の消費税がついて11万円支払われます。(源泉所得税が引かれることは、今は除外して考えます。)出版社は他の著者にも画家さんにも、そしてもちろん印刷所や配送業者などにも支払いをするわけで、この時にも消費税をつけて支払っています。一方、出版社は本を売るに当たって、例えば1000円の本であれば、100円の消費税を付けた形で代金を受け取ります。1000円がまるまる出版社にいくわけではなく、取次や書店で受け取る分があるわけで、例えば1000円の本ならば、半額の500円分の消費税50円が出版社の受け取り分になります。つまり、出版社は一方で消費税を受け取り、一方で消費税を支払っているわけです。そして、例えば一年間で消費税を100万円受けとり、70万円支払ったとすれば、差額の30万円を税務署に納入します。これがざっくり言って、消費税の仕組みです。

・さて、わたしたちも小なりとはいえ、印税や原稿料を受け取っていれば、税務署から見れば「事業者」ということになります。しかし、ほとんどの方は、否応なくそこから10%の源泉所得税を引かれて(つまり、10%を所得税として支払って)はいても、消費税を税務署に納めてきたという方は少ないと思います。なぜなら、売り上げ(わたしたちでいえば印税、原稿料、講演料など)の合計が1000万円以下の場合は、消費税の納入が免除されているからで、これを「免税業者」といいます。会社とかの場合は、売り上げが1000万円以下という場合はまずないでしょうが(児童文学者協会も印税や機関誌購読料、受講料などの「売り上げ」が1000万を超えますから、毎年数十万円の消費税を納めています)、小規模な個人商店やわたしたちのようなフリーで仕事をしている人間の場合は、かなりの割合で免税業者なわけです。

・出版社の話に戻りますが、インボイス制度が始まると、先程の例でいえば、支払った額に付けた消費税70万円について、その支払先が「適格請求書発行事業者」(以下、発行事業者)であるかどうかをチェックしなければならなくなります。このあたりからやや難しくなりますが、先程の例でいえば印刷所や運送会社はまずまちがいなく発行事業者でしょう。なぜなら、こうした会社は売上1000万円以上で、消費税を支払ってきた会社だからです。こうした会社は自分が発行事業者であることを改めて税務署に届け、「適格請求書発行事業者」としての登録番号をもらいます。そして、出版社に請求書を出す場合、その請求書に登録番号を記載するのです。

・さて、今まで免税事業者だったわたしたち。今後は、出版社から印税や原稿料の支払いに際して、請求書を出すことを求められるかもしれません。その場合、上記の登録番号を持ってなければ、番号なしの請求書になります。ところが、これがインボイス制度の一番のキモなのですが、今後は税務署は、そうした登録番号なしの相手に支払った消費税については、「消費税を支払った」とは認めない、ということになるのです。例えば出版社が年間に払った70万円のうち、30万円がそうした著者への支払いだったとすれば、税務署に認められるのは残りの40万円だけです。ですから、いままで100万円-70万円で、30万円を消費税として税務署に納めていたものが、今度は100万円-40万円で、60万円納めなければならないことになります。

・となると、出版社側としては、著者に対して、「適格請求書発行事業者」になって、登録番号をもらってください、ということになるでしょう。言われた我々は、申請すれば発行事業者になることはできます。しかし、そうなれば、1000万円以下であっても、免税事業者ではなくなるのです。つまり、出版社などと同じように、消費税を納めなくてはならなくなるのです。税金の負担が増えるということと、そのための計算がかなり厄介だということと、二つ負担が増えることになります。実はもう一つ問題があるのですが、それは次回に回します。

・ということで、わたしたちは、今まで多分ほとんどの方が「自分が受け取った消費税(の一部)を税金として納める」という発想はなかったし、それで済んできたわけですが、今後はそうはならなくなる、ということで、かなり身近で大変な問題だということが、お分かりいただけたでしょうか。ですから、すでに、文学団体、文化団体などで、反対声明を出しているところもありますが、児文協としては今回の勉強会を出発点に、他団体とも協議しながら、対応を考えていきたいと思います。(次回に続く)

2022/10/18

82、お金を拾った話(2022,10,5)

【市役所支所の帰りに】

・前回の「懸賞に当たった話」に続いて、「お金を拾った話」というショーモナイ話題で恐縮ですが、2、3日前に市役所の支所に、必要があって戸籍謄本を取りに行きました。支所(公民館も一緒ですが)は、歩いて5分もかからない所にあり、それでも自転車で行く場合もありますが、天気も良かったので歩いていきました。戸籍謄本を受け取ったら、手数料が450円ということで、「結構かかるんだな」と思い、500円玉をだして50円のお釣りをもらいました。

 その帰り道、支所と僕の家のちょうど中間ぐらいのところでバス通りを横切ります。そこが横断歩道になっているわけです。そこを渡る途中何の気なしに下を見ると、光るものがあります。500円玉に見えました。拾ってみたら、本当に500円でした。「これは、市役所の神様(笑)がお金を返したくれたのかな」と思い、持って帰り、よく洗って財布にしまいました。何円以上だと警察に届けなければいけない、という規定があるのでしょうか。まあ、ここに書いても捕まることはないと思いますが。

【お金を拾った話】

・思い出してみると、お金を拾ったことで記憶に残っているのは2回。1回目は子どもの時で、やはり500円でした。といっても、僕が小学校中学年くらいの時ですから、1960年前後、今の価値でいえば5000円くらいでしょうか。当時は「500円札」でした。学校の帰りで、友だちと一緒でしたが、ちょうど近くに派出所があり、勇んで(だったような気がします)届けに行きました。「良く届けてくれたね」みたいなことを言われたような気がします。書類を作ってくれて、家に帰り、母親に報告したのだと思います。

・このシステムは昔も今も変わらないと思いますが、拾われたお金は半年間保管され、持ち主が現れなければ拾った人のものになります。そのことは派出所で教えられたと思いますが、子どものことですから、忘れていたのではないでしょうか。やがて母親から半年が過ぎたことが告げられ、兄が銀行に取りに行ってくれました。兄といっても末っ子の僕より17才上で、学校の先生でした。当時でも銀行で500円を下ろすという人は少なかったようで(今のように機械で手軽に入れたり出したりするのと違い、下ろすとなれば、ある程度まとまった金額の場合が多かったようです)、窓口で500円を受け取るのは恥ずかしかった、と兄から言われた覚えがあります。その500円をどう使ったかは覚えていません。

・二度目は大学生の時でした。僕は秋田市の大学の寮に住んでいましたが、秋田駅の駅前広場で、銀行の封筒を拾ったのです。その時は一人だったように思います。拾ってみると、手の切れるような(という感じでした)1万円札が1枚と千円札が1枚入っていました。なにしろ、貧乏学生、場所がそこでなければ多分そのまま懐に入れたと思いますが、駅前広場という人が多い場所で、すぐ横に派出所があります。しかたなく(?)届けました。

 そこで書類を作ってもらったわけですが、今度は「半年後までに持ち主が現れなければ、自分のものになる」ということは知っています。ただ、銀行から下ろしたばかりのようだし、持ち主は当然現れるだろう、と思いました。

・「おっ」と思ったのは、半年後の日付でした。12月24日だったのです。ということは、その日は6月の24日(25日?)だったのでしょう。「こりゃあ、クリスマスプレゼントだな」と、内心笑ってしまいました。当時の1万円は今の5万円くらいでしょうか。僕からすれば大金で上記のように当然持ち主が現れると思いましたが、まあその程度のお金で、結局持ち主は現れませんでした。どうせ、もらえないだろうと思っていたので、このことは寮で吹聴していたので、もらった1万1千円は、寮の友だちやらで忘年会で(?)飲んで終わりだったと思います。

・このことを題材にして、大分前ですが、実話風の短編に仕上げたことがあります。学研の学年雑誌だったか。〈ぼく〉は、そのまま学生寮に住む大学生という設定。半年後の12月24日に1万円を受け取った帰り道、目の前をサンタクロースが歩いています。思わず後を追いかけるのですが、見失ってしまいます。その時に、子どもの頃にお金を拾ったことを思いだして、急に母親のことを思いだし、急いで家に帰るのです。1万円で、ケーキと母親へのプレゼントを買って。きっとこのお金は、そんなに遠くにいるわけではないのにちっとも家に帰らない僕への、サンタからのメッセージだと思いながら……。

 という話でした。考えてみると、10歳の頃に500円、20歳の頃に1万円ですから、その法則からすると40歳の頃に20万円を拾わないといけないのですが、72歳の今日までサンタはやってきません。今回500円拾ったのは原点に帰れ(!?)ということでしょうか。

2022/10/05