藤田のぼるの理事長ブログ

90、雪の思い出(2022,12,25)

【大雪のニュースが】

・クリスマス、いかがお過ごしでしょうか。少し前、新潟県で車が立ち往生したりと、大雪のニュースが報じられました。その後も、東北・北海道の日本海側は大雪が続いているようです。僕が生まれ、育ったのは秋田県仙北郡長野町というところで、その後二度の合併を経て、今は大仙市となっています。秋田新幹線とも重なっている田沢湖線の沿線の平野部で、豪雪地帯とまでは言えないものの、一メートル半くらいは普通に積もったでしょうか。大雪のニュースに加え、たまたま少し前に、いぬいとみこの『山んばと空とぶ白い馬』を読んだせいか(いぬいさんの山荘があった黒姫高原が舞台で、雪の描写がすごい)、子どもの頃の雪景色を思い出しました。

・とはいえ、冬に雪が降るのは言わば当たり前でしたから、そんなに思い入れがあるわけではないのです。ところが、というか、東京に出てきて何年目だったか(と思い、検索したら1976年ですから4年目でした)、NHKの朝の連続テレビ小説で「雲のじゅうたん」というのがありました。隣町の角館が舞台で、浅茅陽子演じる日本で最初の女性パイロットになった人がヒロインでした。この帯ドラは4月初めの平日から始まると思うので、その頃は小学校教員で結構朝早く家を出ていましたから普通なら見られないと思うのですが、なぜかたまたま一回目の時、家にいて見たのです。深い雪景色の中を、馬が引くそりが進んでいきます。それを見たとたん、涙が流れてきたのです。そりの御者は、角館出身の俳優山谷初男さんで、その秋田弁のせいもあったかもしれませんが、じわっとという感じではなく、ぼろぼろと涙が出てくるのです。おれはこんなにも故郷を恋しがる人だったか……、自分でも驚きました。その雪景色が引き金だったことは、間違いありません。

【馬そり、箱ぞり……】

・そういえば、僕が子どもの頃はまだ自動車は少なく、冬になるとまだ馬そりが運搬のかなりの部分を受け持っていました。朝学校に行くときに、馬そりが通った後だと、道路の雪がしっかり固められ、そりの跡はてかてかになっています。そこを長靴でつーっとすべって遊びながら学校へ向かいます。馬そりがやってくると、それにつかまって滑ろうとしますが、結構速いので、つかまりきれません。

 そりといえば、どの家にも箱ぞりというのがありました。昔風の乳母車の車輪の代わりにそりがついた形をイメージしていただければいいでしょうか。ベビーカー兼ショッピングカーという用途で、主に女性が使います。小さい子を乗せたり、冬は自転車が使えないので、買い物などの用事にも使います。その家の紋がついた立派なものもありました。

・箱ぞりの思い出と言えば、一度母が僕を箱ぞりに乗せて、実家まで行ったことがありました。おそらく四歳位の時のことで、僕の記憶の中でも一番早いほうの部類です。これは後で母から聞いたのですが、途中で僕が何度も「こわゃー、こわゃー」と言うのだそうです。「こわい」というのは秋田弁で「疲れた」という意味で、僕はただ箱ぞりに乗せられているわけですから、疲れるはずはないが……と母は思ったそうです。実は、酔っていたのですね。雪道はそれなりにでこぼこしていますから、車酔いの状態になったわけです。

 実家は隣の角館のいわゆる在で、そうですね10キロ以上の距離はあったのではないでしょうか。3時間くらいはかかったと思います。僕は酔ったことは覚えていませんが、途中でちょっとこわそうなおじさんから、「坊、どこまで行く?」というような声をかけられたことを不思議に覚えています。

 今思うと、その時、母はなぜ3時間もかけて、僕を連れて実家に行ったのでしょうか。そのことがあったから、というわけでもないでしょうが、子どもの頃、雪の中を角巻き(ショールのような防寒着です)をかぶった女の人が箱ぞりを押して歩いていく姿に、妙に心動かされるものがありました。杉みき子さんの作品に出てきそうな世界ですが、僕の原風景のひとつです。

【『雪咲く村へ』のこと】

・そういえば(というのもいささかわざとらしいですか、書き始めた時はこのことは頭にありませんでした)、僕の最初の創作の本は「雪咲く村へ」というタイトルです。学生時代に書いたこの作品が、那須正幹さんの推薦で本になった顛末はすでに書きましたが、このタイトルはある詩から取っています。ロシアの詩で、「行くはいづくぞ 桃咲く村へ 今日の議題は 春について」というのです。僕はロシアの農民詩人が書いたというこの詩を新聞で見た覚えがあり、「桃咲く村」を「雪咲く村」にしたわけです。それで本になるとき、冒頭にこの詩を載せようと思って探したのですが、結局出典がわかりませんでした。「今日の議題は春について」というのが、いいと思いませんか? もし、「その詩、知ってる」という方がいらしたら、ぜひご一報ください。

 それでは、皆さん、良いお年を。来年の議題が、いい議題になることを願って。

2022/12/25