【初読書は、】
・良くいうフレーズですが、今年ももう半月、うかうかしていると、すぐに2月、3月になりそうです。半月も経ったので「初ナントカ」も今さらですが、今年の“初読み”は、前回書いたように、元旦のポストに入っていた信州児童文学会の高橋忠治さんの追悼号でしたが、本としては、森忠明さんの『末弱記者』が、今年初めて読んだ本でした。暮れに森さんから送っていただいたのが、そのままになっていたのを、読んだわけです。Tuuleeという出版社から出ていて、森さんとしては久しぶりの児童文学の単行本ではないでしょうか。7編の短編と3編の詩が収録されていて、7編の内5編は90年代に『飛ぶ教室』などに発表した作品、最新作が表題作でもある「末弱記者」です。僕は“末弱”という言葉を知りませんでしたし、そもそもこういう言葉があるのかどうか、放たれた矢が最後まで勢いの衰えないことを「末強」というのだそうで(これは広辞苑に載っていましたが、これも初めて聞きました)、その反対言葉として使われています。
森さんは僕と同年代ですが、ほとんどの作品で、東京・立川で過ごした自身の少年時代を題材にしています。この作品もそうでした。中学校に入学して新聞委員になった主人公が、尊敬する先輩から「中学生になって」という文章を書くように言われ、つい心にもないことを書いてしまった自分を恥じて、“末弱”記者と自嘲しているわけです。「自伝的な作品」という言い方はありますが、森さんの作品は児童文学で“私小説”は可能なのかという究極の試みともいえ、今度の作品でもそうした森さんの変わらぬモチーフが見てとれ、いやいや作家としてはとても“末強”ではありませんか、と言いたい感じでした。
・森さんの本は短篇集でしたが、今年の長編初読みは、山下明生さんの『ガラスの魚』(理論社)でした。 (やました・あきおと読まれた方が少なからずいらっしゃると思いますが、「はるお」です。)山下さんと言えば、『海のしろうま』などで知られる「海の童話作家」の第一人者で、もはや大ベテランと言っていいでしょう。帯に「『海のコウモリ』『カモメの家』に続く 山下明生が描く自伝的少年小説」とあったのに、まず目を惹かれました。幼年から中学年向けが多い山下さんの作品の中で、この二作はかなりの長編の小説的な作品で、『海のコウモリ』はアニメにもなっています。三部作ということになるのでしょうが、『カモメの家』が出たのはかなり前です。調べてみたら1991年だったので、実に30年ぶりに完結ということになったわけです。
とにかくおもしろかった。かつて『海のコウモリ』を読んだ時、それまでの山下作品とは違う小説的なテイストにややとまどった覚えがありますが、今回は中学一年生の主人公が、学校の前の川でいきなり死体を発見するという出だしから、一気に引き込まれました。「ベテラン健在」などと言ったら失礼になるでしょうが、これこそ“末強”でしょうか。
【初仕事は、】
・さて、初仕事の方ですが、頭脳労働(?)の方では、締め切りをとっくにとっくに過ぎていた、「戦後日本の児童文学の歴史を、400字15枚で書く」という、ある事典のための原稿を書いたことでしょうか。どうすればその短さに収められるかと気になりつつ、昨年は協会の資料集のことに頭を取られて、なかなか手を付けられないでいましたが、資料集が終わったので、ようやく着手。しかし、最初の原稿は1960年代までで10枚になってしまい、「少し長くできないか」と編集担当に打診してみたのですが、「無理」とのこと。そこからは、意外に一気に進みました。こんなことなら、もっと早く手を付けていれば迷惑をかけないで済んだな、と思ったのですが、これは皆さんも経験があるでしょうが、一見何もしてないような助走期間があればこそ、できたのだと思います。まあ、言い訳半分ですが(笑)。
・そして、肉体労働の方です。こちらもずっと気になりつつ、でしたが、『日本児童文学』のバックナンバーなどを置いてある倉庫の整理。倉庫とはいっても実際は1Kのアパートで、僕の家から車で7、8分のところ。1997年に機関誌が協会の自主発行になった際に、バックナンバーを保管する倉庫が必要になりました。ただ置いておけばいいわけではなく、注文があった場合には対応しなければなりません。発売をお願いしている小峰書店が新しいものには対応してくださいますが、古いバックナンバーなどは協会自身が対応しなければなりません。もちろん倉庫を置いて専属のスタッフを置くなどという余裕はないので、僕の家の近くのアパートを一室借りて(埼玉の結構奥なので、2万円台で借りられるのです)、そこに並べていくわけですが、この体制になってからもう二十五年近くになりますから、なかなか整理が追いつきません。古いバックナンバーは多少の保存分を残して、泣く泣く(?)処分してスペースを作り、新しいものを並べるという作業が何年に一度か必要なわけで、ようやく取りかかったところです。ただ、いつまでも僕の家の近くにというわけにはいかないので、この後どうするのか、頭の痛いところです。
とはいえ、ともかく、気にかかっていた二つのことができて、まずは悪くない初仕事になったような気がしています。