パンダ好きにも、パンダ好きでない人にもおすすめ 望月芳子
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言はそろそろ解除になるが、まだしばらくは自粛生活が続きそう。行きたい所へ行けず、やりたいことができなくてストレスが溜まりがちな今、楽しい気分にさせてくれるのが、『世界一のパンダファミリー 和歌山「アドベンチャーワールド」のパンダの大家族』(神戸万知 作、講談社青い鳥文庫)だ。
これは、子どもが次々と生まれ、16頭が無事に育っている和歌山県の「アドベンチャーワールド」のパンダファミリーを描いたノンフィクションだ。絶滅危惧種であるパンダが、故郷中国以外でこれほど自然繁殖に成功している例はほかにはない。お父さんパンダの永
明(えいめい)は、世界一の子だくさんだ。
おっとり優しい美パンダ・永明は、主食の竹の好き嫌いが激しく、飼育員さんを泣かせながらも気遣いができるオスに成長。妊娠可能期間が年にたった3日しかないメスを上手にリードして、赤ちゃんを誕生させた。丸顔美女のお母さんパンダ梅梅(めいめい)は、普通なら一頭しか子育てしないパンダの習性にあらがい、双子を同時に育てたグレートマザー。梅梅が生んだ二代目お母さんの良浜(らうひん)も、子どもの頃は暴れん坊だったのに、今や9頭も育てた立派なお母さんパンダだ。
本書は、永明が2歳でアドベンチャーワールドにやってきた頃から、最初のパートナーのメスが死に、3年後に梅梅がやってきて少しずつ家族が増えていく悲喜こもごもの軌跡をたどりながら、知られざるパンダの生態や歴史、パンダが絶滅の危機に瀕しているのは、人間が住みかをどんどん開発してしまったことが原因だと教えてくれる。パンダの可愛い写真に癒され、それぞれ性格が違い、意外と人間くさいパンダたちの描写にクスッと笑いながら、パンダを始めとする野生動物の未来についても考えさせられる良書だ。