美しいファンタジー 高橋秀雄
『朝顔のハガキ』作 山下みゆき 絵 ゆの 朝日学生新聞社
副タイトルに「夏休み、ぼくは『ハガキの人』に会いに行ったとあった。帯には「夕鶴ルール?」と「河童の仕事?」の言葉と、本の説明としてだと思うが「少年2人の、ちょつとホラーな夏休み」と書いてある。
読み始めて感激だったのは、ポンポンと、上等なコントのやりとりの「二人の視点の入れ替え」のような章分けが気持ちいい展開を見せてくれたことだ。本の紹介だから、まだ読んでいない読者のことを考えて、読者と同じ立場になろうと、いつもは半分くらいしか読まないつもりで本に向かっていたのに、テンポの良さに乗せられて、あっという間にラストに行き付いてしまった。
主人公は6年生の山口誠也だが、突然友だちになった梶野篤史の生き方も興味深かった。二人が出会うきっかけは、誠也の家のばあちゃん宛に毎年来て3枚になった「朝顔のハガキ」と1枚の招待状だった。最初に来たハガキはばあちゃんが破り捨て、その後のハガキを誠也がとっておいたのだ。今年来たハガキの4行の文章のうちの2行「夏休みに、ぜひ遊びにきてください。魚釣りなら教えられます。」という、まるで誠也宛てに書かれたようなハガキだった。
4枚のハガキを並べて考える。
この「ハガキの人」のところに行けないだろうかと。そして、ステキな考えに到達する。
「――ぼくが行動を起こせば、何かが変わる」になる。
夏休みが迫っていた。「ハガキの人」のいるところを知るために、パソコンを使える子を探し、いきなりそれをお願いする。そこで篤史の登場となり、二人の視点の「章」が始まる。
誠也が島根の「ハガキの人」のところに行くまでに、ばあちゃんの妨害に会う。母さんが味方になってくれた。島根に行った誠也。篤史の世話になったけれど、強くて不思議な結びつきもできる。篤史の変わり方もすごかった。
帯の言葉では「ホラー」だが、私には遠い昔からの「美しいファンタジー」に思えた。そして、読者はラストまで一気に読まされることになるのだ。
今回は機関誌部長でお忙しい高橋秀雄さんが書いてくれました。ご協力、感謝します。講座ブログは原稿募集中です。事務局まで「講座ブログ原稿」と書いて送ってください。日本児童文学者協会員、日本児童文学学校在籍または卒業生、創作教室在籍または卒業生の方々、よろしくお願いします。