おすすめの絵本 松原さゆり
ほんとうに大変な世の中になってしまい、毎日不安です。テレビのニュースで、心が暗く冷たくなってしまいます。
そんな時だから、大人も絵本を読んでみませんか? 絵本は心の処方箋ともいわれ、ヒーリング効果もあり、癒してくれます。
私が今回お勧めするのは、「花さき山」文 斎藤隆介 絵 滝平二郎 です。
子どもの時にだいすきだった絵本で、母親にもよんでもらっていました。そして、子ども達へもよく読み聞かせました。いかに民話をそれらしく読み聞かせるかというのにはまり、上手に読める自分によっていたときもあります。それからは、だんだんと自分のために、心からあじわっていると。いつのまにか、この絵本をなんと暗記していました。
ご存じだと思いますが、簡単な内容は。
お祭りのための山菜をとりに山へ出かけた、十才のあやは山ンばに出会います。
不思議な話を山ンばはあやにします。「この山の花は、村の人間が優しいことをするたびに咲く」と。そこには、あやが昨日咲かせた赤い花もありました。それは祭りのために着物を買ってほしいと、母親にだだをこねる妹のために、あやは自分はいらないから妹に買ってあげてといいました。貧しい家なので母親は助かったし、妹は喜んだ。あやはせつなかった。だけど、このきれいな花がさいたのです。小さい青い花は、双子の赤ん坊の上の子が、母親のおっぱいを下の子のためにがまんをして、今咲かせているのです。
「つらいのをしんぼうして、じぶんのことよりひとのことをおもって、なみだをいっぱいためてしんぼうすると、そのやさしさとけなげさがこうして花になってさきだすのだ」
人知れずに誰かのために自分を犠牲にする。他者を活かすことで、自分が活きることができると。そんな話です。
読後、静かに、心の中に温かなものが満たされていきます。
がまんとか犠牲にご意見のある方もおられるかと。でもこれは、ちょっとした他者を思いやる優しさです。人に与えられるのは、お金や力や能力ばかりではなく、なにも持たないあやが、花を咲かせることができるんです。けなげで人を思いやることの優しさが、美しい花となると。
「あっ! いま、花さき山で、おらの花がさいてるな」最後の一文。
あやが、おとうやおっかあにそんな話はうそだと笑われて、だれにも信じてもらえなくても、今、花がどこかにさいているんだと、自分を認めている姿は、とても前向きです。
作者のあとがきで、「われわれは一人ではなくて、みんなの中の一人だ、という自覚を持つことです。みんなの中でこそ、みんなとのつながりを考えてこそ、自分が自分だと知ったことです」と。
そう、「みんなの中の一人」として生きていくには、ぐっと耐える瞬間があり、その時、花がどこかで咲くという自己肯定です。
今、まさに外出ですら自粛でがまんです。私の花が、あなたの花が、どこかで咲いていますよね。
もちろん絵本ですので、黒をバックにした切り絵が美しく、どんと心にせまります。切り絵のため表情がかたいですが、それだけに心のひだを感じます。
このページの、このページの、この絵と、ページをめくる楽しさがあります。
ページをめくっていると、昔をなつかしむ気持ちにもなってきます。そう、子どものころの純真な気持ちを思いだしたりもします。
また、新たな気付きも得られるのです。
私は、山ンばの限りない優しさと慈愛に気付きました。降り注ぐ優しさと見守る温かさと厳しい姿、まさに山ンばこそが花さき山だと、思えてきます。
「おどろくんでない。おらは、この山に、ひとりですんでいるばばだ」最初の一文。
山ンばの人生に興味をひかれます。山にひとりで住むって、いきさつに何があったのでしょう。
いろいろ考えます。「おどろくんでない。」だから、とんでもないことだったりして。
どうでしょう。なかなかおもしろいと思いませんか?
大人が、今だから読む絵本、あると思います。