講座ブログ

秋の一日講座・報告

秋の一日講座レポート 新井爽月

「主人公になりきるために取材からヒントを得る」

 

 コロナ禍の状況下で行うことができた今年度初の秋の一日講座。

 定員20名を上回る申し込みをいただけたことも大変嬉しかったですが、無事に講座を開催できたことが何よりも有難かったです。

どう取材したら良いのかという点については、書き手ならば一度は必ず悩み迷う課題の一つであると思います。

 今回の講師役を務めて下さった森川成美さんは、ノンフィクション及びフィクション共に念密な取材を経て作品を書き上げた経験を幾つもの資料を踏まえ、大変丁寧に解説して下さいました。

 

 特に『マレスケの虹』という作品を書き上げるために二度に渡りハワイに向かい、現地の空気感や肌感覚、物語の舞台となる時代背景について等、意欲的に取材をなさっていたことがとても印象的でした。

 なぜ取材をするのかという疑問について森川さんは、主人公になりきるために余白があるとなりきることが難しく入り込むことができないという主旨の発言をされていましたが、この「余白」についても大変細かな点まで調べられ、実際にご自身で体験&体感なさっていたことに驚きを覚えました。

『マレスケの虹』において、一番ご苦労なさったのはハワイ島の移民一世として渡られた1910年代の時代背景についてだったそうです。

 移民に関する歴史資料館などで資料を紐解いてもその年代にピタリとはまる資料に出会えず「それなら現地に行くしかない」と決意なさった経緯をお聞きすることができました。

 

 取材をする大事さは誰しも理解ができますが、取材をしたことで作品そのものが説明的になりすぎてしまう懸念や、膨大な量の取材の中から何を取捨選択するかという匙加減の難しさなども非常に興味深く、参考になる意見を伺うことができました。

 

 第二部ではくもん出版編集の和田さんが書き直しと取材のコツについて、編集者というお立場を踏まえお話して下さいました。

 

 当然のことながら「書きたい・伝えたい」という思いが作品には必要だけれど、本になる作品に求めるのは書きたいという思いだけではなく、誰に伝えたいのか、どんな作品(本)にしたいのかという、より広い視点が重要になるという意見に受講者の方々も深く頷いていたのが印象的でした。

 

その後、第三部でのトークショー及び質疑応答についても、取材で見聞きした情報や実際に体験した肌感覚をどこまで作品に生かし、必要のない部分は思い切ってカットするかという点についてそれぞれの思いを聞くことができ、大変参考になりました。

 

 取材をする!となるとついつい身構えてしまいがちですが、普段からアンテナを張り巡らせ、できる時にできることを体験しておくことや、好奇心をもって見聞きしておくことが結果として作品に生かせることに繋がると、理解が深まりました。

 

 足を運んで下さった受講生の方々、そして講師を務めて下さった森川さん、和田さん、本当にありがとうございました。

 ぜひまた次の機会も対面での講座を開催できる日を楽しみにしております。

 

 

2020/10/04