「遍在する詩歌」を読んで
編集部ブログ担当の荒木です。3・4月号の特集「遍在する詩歌」はいかがでしたでしょうか。
対談をしてくださった松村由利子さんは科学絵本の著作がありますが、歌人でもあるということで、短歌で日常をつづった『物語のはじまり』という著作を読ませていただきました。そのあとがきに次のような言葉が書かれており、まったく同じことが児童文学においても言えるのではないかと思い、心に残りました。
〈歌壇ジャーナリズムでは、新奇性や話題性のある作品が繰り返し取り上げられる一方で、味わい深い佳品がそれほど話題にもならずに忘れられてゆく現実がある。歌の力によって折々に慰められ励まされてきた者としては、たいそう残念なことに思う。〉
そんな思いから著者の心を動かした作品を取り上げ、わたしたちの日常とのつながりが語られます。「病む、別れる」の章では、病床に伏した正岡子規の「足立たば北インジャのヒマラヤのエベレストなる雪食はまし」が紹介され、エベレストの雪を食べたいと願う子規は、「激しい痛みの中で」「自分の魂を解き放ち、どこへでも行くことができたのだ」と語ります。
力強さとともに軽やかさも感じられ、新しさのヒントにもなるように思えました。
今回は、編集部の間中ケイ子さんに“自転車に乗ってやってくる~詩歌”という文章を書いていただきました。
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“自転車に乗ってやってくる~詩歌”
~「日本児童文学」3・4月号を読んで~
遠くから来る自転車さがしてた 春の陽、瞳、まぶしい。どなた
(『回転ドアは、順番に』穂村弘×東直子 ちくま文庫)
(前略)現代短歌をけん引する二人、穂村弘と東直子による恋愛詩歌の往復メールをまとめた『回転ドアは、順番に』だ。冒頭に掲げた歌はその一行目だが、口語で書かれた三一文字から、自転車は来るかと遠くへ目をやったときの、春の陽のまぶしさ、言葉を四つ並べた畳みかけるような下の句と自転車が来るさまとの響き合い、そこにこめられた想いなどが一気にたちのぼり、わたしを魅了した。(後略)
(「日本児童文学」3・4月号 三辺律子 論考より)
「日本児童文学」3・4月号特集「遍在する詩歌」のこの三辺律子氏の論考「詩歌ブームは軽いのか」を読み終えたとき、目の前が、ぱーっと明るく開けたような気分になりました。まるで、窓を開いたとき、新しい風が吹き抜けていくような清涼感です。自然体でまっすぐに立つ、その姿の清々しさとでもいいましょうか。
私の中の短歌や俳句は、教科書で学んだままの感覚がどこかに残っています。それは、緻密な自然観察や雄大な時の流れを感じさせる表現など、凝縮された荘厳な文学の世界という記憶です。
しかし、今号にご寄稿いただいた穂村弘さんの短歌作品にもみられるように、新しい詩歌の風はたしかにふきぬけて、若い世代にもひろく親しまれていくようすが見えてきています。肩の力をぬいたときにこそ、本音の言葉が生まれでるのかもしれません。まさに目から鱗が落ちるというのは、こういうことなのでしょうか。
飲みかけのペットボトルが増えてゆくこの子は飲めるこの子はやばい
また僕を開けっぱなしにしてるって夜の冷蔵庫に叱られる
(「日本児童文学」3・4月号「この子はやばい」穂村弘)
(編集委員 間中ケイ子記)
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前回のブログでもお知らせしましたとおり、本誌11-12月号では、「クリスマスをうたう」として、詩歌の募集をいたします。ふるってご応募ください!
「日本児童文学」✿詩歌作品募集
詩・童謡・俳句・短歌
~クリスマスをうたう~
「日本児童文学」11・12月号では、クリスマス特集として、クリスマスにちなんだ創作や論考を掲載する予定です。併せて「クリスマス」をテーマにした詩歌作品の募集をいたします。
《募集要項》
✿応募作品のジャンル
・詩・童謡・俳句・短歌
✿字数
・詩・童謡
本誌の見開きに入る分量
・俳句・短歌
タイトル+三句・三首
✿応募方法
・いずれかのジャンルを選び、
応募は一人一篇のみ
✿締め切り
・2023年6月末(消印有効)
✿応募資格
・どなたでも応募いただけます。
・会員外の方は、本誌5・6月号の「応募券」を同封ください。
✿作品選考について
・選考は本誌編集委員が行います。
・入選作品は、本誌11・12月号に掲載し、所定の原稿料をお支払い致します。
✿送り先
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6-38-502
「日本児童文学」編集委員会・宛