121、年末読書日記、あれこれ(2023,12,26)

理事長ブログ

【宿題の続きを】

・一日遅れになりましたが、本年最後のブログ更新になります。この間、前回書いた「新美南吉の宿題」に、ややかかりきりでした。なにしろ、1980・90年代の仕事の始末を今つけているわけで、始めてみると、不明確なことや取り違えていたことがいろいろ出てきます。同時に、いろいろ発見もあります。前回書きましたが、新美南吉著作権管理委員会の活動は、南吉の死後30年の時から、著作権期限が切れる死後50年の時までだったわけですが、この間で、作品使用の申請数(重版の申請を含む)が一番多かった1978年度、その数が79件。また、著作権料の支払い件数が一番多かった1981年度は、151件でした。つまり、4、5日に一回、なんらかの作品使用の申請があり、2、3日に一回、なんらかの入金がある、という具合だったわけです。日本の文学史上、こんな作家は、多分新美南吉しかいないのではないでしょうか。

【厚い本を2冊読みました】

・というわけで、この間、久しぶりに事務所に足繁く通っているわけですが、その際のメリットは、電車に乗っている時間が長いので、分厚い本が読めるということです。仕事で児童文学を読むわけで、電車では大人向けの本を読む場合が多く、歴史ものやSFが好みです。今年はまっていたのは、江戸期の火消しの世界を描いた今村奨吾の「火喰鳥」シリーズでしたが、この間読んだ本が2冊、どちらもなかなかに読み応えがありました。どちらも、初めての作者でしたが、一冊は歴史もので、川越宗一の『パシヨン』(PHP)、キリシタンものです。もう一冊は、深緑野分の『スタッフロール』(文藝春秋)、これも歴史ものと言えなくもないのですが、アメリカの映画の特殊効果の世界が題材です。

・『パシヨン』のほうは、夕刊紙だったか週刊誌だったかの書評で見たのですが、僕はキリシタンものは大体読むことにしています。この作品がユニークなのは、主人公というべき存在が二人いて、かたやキリシタンを弾圧する側、かたや弾圧される側、という仕掛けになっていることです。弾圧される側は、つまりキリシタンなわけですが、キリシタン大名として有名な小西行長の孫で、日本を逃れ、苦労の末ローマにたどり着き、司祭の資格を得て、日本に帰ってきます。途中まで同行し、ローマで再会するのがペトロ岐部で、日本人として初めてエルサレム経由でローマに到達したこの人のことは、かつて松永伍一が児童文学作品として書いた『旅びと―ペトロ岐部の一生―』(偕成社)で知っていましたが、小西行長の孫のことは初めて知りました(多分、作者の創作ではなく、史実だと思うので)。

もう一つ興味深かったのは、弾圧する側の井上政重(筑後守)のことで、微録の御家人から大目付まで出世し、キリシタン弾圧の中心人物になる彼の一生が、キリシタン側の人々と並行する形で描かれていきます。この名前に覚えがあったのは、遠藤周作原作の映画『沈黙』で、この筑後守をイッセー尾形が演じていたのが、とても印象に残っていたからです。

・もう一冊の『スタッフロール』ですが、那須正幹著作権管理委員会の時に、宮川健郎さんから、文芸誌『すばる』の1月号のことを教えてもらいました。ここで、「子どもと本と未来と」という特集を組んでいるのですが、そこにエッセイを寄せている一人が、この本の作者・深緑野分さんです。何度か直木賞候補になっているこの作家のことを、僕は知りませんでした。そのエッセイ「児童文学について」の中で、子どものころ児童文学というのは優等生の姉のような人のための本という思い込みがあった中で、「私のような……ひねくれた子どものために書かれた本があったのだ」と出会えた本が2冊紹介されています。一冊はロアルド・ダールの『ぼくのつくった魔法のくすり』、そしてもう一冊が『きょうはこの本読みたいな ねる前に読む本』で、「これは大人が子どもを「舐めて」いない本だと思った」と書かれています。実は、この「きょうはこの本読みたいな」のシリーズは、上記・宮川健郎さんと僕と石井直人さんの(当時)若手評論家3人が編集に当たったシリーズでした。

ということで、深緑野分さんの本を何冊か借りてきて、最初に読んだのが『スタッフロール』。スタッフロールというのは、映画の最後に延々と流れる、スタッフの名前の画像のことで、ここに名前が載るかどうかが、この世界で働く人にとって大問題であることはわかります。主人公は映画の特殊造形師であるマチルダ。1946年生まれの彼女は、子ども時代の出会いがきっかけで、その世界に入るのですが、ようやくスタッフロールに名前が出るかもしれないという時期になって、コンピュータによるCGの世界が現れ始め、映画界から去ります。実は、まだ5分の1ほど読み残していて、最後どうなるか、楽しみです。

・ということで、今年の最後は「読書日記」のようになりましたが、大分前に紹介した、児童文芸家協会の『児童文芸』とのコラボ特集、その『児童文芸』冬号が出ました。僕と児文芸の山本理事長との対談(の前半)も載っています。後半は、『日本児童文学』1・2月号に掲載され、年明けには両協会のホームページにも掲載されます。

それでは、皆さん、どうぞ良いお年を。