120、新美南吉の宿題(2023,12,5)

理事長ブログ

【12月に入って】

・前回の更新日、12月5日は、サラッと(?)忘れてしまいました。気がついたら、12月ももう半月が過ぎ、今年も残すところ半月となりました。ここ数年同じことを言っている気もしますが、その割にあまり“年末”という感じがしません。特に今年は、兄が亡くなって年賀状を書かないので、余計にそう思うのかもしれません。(これをご覧になっている方で、僕に年賀状を出そうとされている方がいらしたら、遠慮なく送ってください。僕から喪中のお断りのハガキは出さず、年が明けてから寒中見舞いの形で年賀状の代わりにしようと思っています。)

さて、この間11日に、2年に一度の評議員会、13日には那須正幹著作権管理委員会などがありましたが、それも含めて、11月末あたりから、週2回程度、事務局に出ています。これまで概ね(特に曜日は定めていませんが)週に1回程度のペースでしたが、年内、遅くも1月初めまでに終えなければならない宿題があるからです。

【その「新美南吉の宿題」とは?】

・それは、新美南吉がらみなのですが、南吉作品に関わる研究論文とかではありません。いや、広い意味ではそう言えるかもしれませんが、基本的には「元事務局員」としての仕事になります。

前も書いたと思いますが、協会は以前「新美南吉著作権管理委員会」の窓口にもなっていました。南吉が29歳で亡くなった後、本来の著作権継承者である父親(独身で妻も子もいなかったので)に代わって、『赤い鳥』で兄弟子のような存在だった詩人の巽聖歌が、一手に南吉の原稿の保管や著作権管理に当たります。これは、宮沢賢治の死後、弟の清六さんがその任に当たったのと、よく似ています。ところが、その巽さんが1973年に亡くなりました。南吉は1943年に亡くなったので、著作権の保護期間がまだ20年(現在は死後70年になりましたが、当時は50年)あったわけです。そこで、関係者が集まり、新美南吉著作権管理委員会を立ち上げ、集団的に著作権管理を行うことになりました。そして、管理委員会の事務所は、児文協に間借りするような形で置かれました。

ですから、管理委員会は、南吉の印税の一部から、協会に“家賃”を払っていましたし、僕ら事務局員は“手当”ももらっていました。僕は1979年に事務局員となり、81年から管理委員会の事務を担当しました。

・南吉作品は、読み物や絵本としてもたくさん出ていましたが、人形劇、アニメなど、二次的使用が実に多いのです。その許諾は管理委員会が行うわけです。ただ、使用料、原作料のチェックなどが大変なので、許諾の窓口を日本文芸著作権保護同盟というところに委託していました。今はない組織ですが、その仕事は、日本文藝家協会著作権管理部に受け継がれています。

ですから、その保護同盟から、時々というか、しょっちゅう「●●出版で、「ごんぎつね」を絵本にしたい」とか、「どこそこの劇団で、「手袋を買いに」を人形劇で上演したい」という通知が届きます。使用料などは保護同盟の規定でチェックされていますから、大体の場合、そのまま返信ハガキでOKを出すのですが、後者のような場合は、先に台本を送ってもらってチェックするようなこともありました。そして、4か月に1回だったか、保護同盟から使用料の支払い(10%の手数料を引いて)がある際に、その間の作品使用のリストが改めて送られてきました。

・ということは、管理委員会が発足した73年(12月)以降の20年間については、新美南吉の作品がどのように出版され、あるいは使用されたかが、完璧に資料として残っているということになるわけです。このことにはもちろん気が付いていて、20年分のそうしたファイルを、いずれ新美南吉記念館に寄贈しようとは思っていました。ただ、ファイルもかなり雑然としており、当時直接実務に当たっていた者でないとわからないこともあるので、資料寄贈の前に、管理委員会の仕事の全体像や、南吉作品がどのように使用されたかについて、記録をまとめなければと思っていました。幸い、記念館では、毎年『紀要』を発行しており、この記録は単に事務引継ぎということを越えて、新美南吉研究にとっても貴重なものになるはずなので、そこに発表させてもらうことにしました。その締め切りが1月頭というわけです。

・ですから、例えばその20年間の中で、「ごんぎつね」が、本として、あるいは劇やアニメの原作として何回使われ、その著作権料がいくらに達したかというようなことが、ここで明らかになるということです。これも前に書いたと思いますが、日本の近代文学の作品で、原稿用紙1枚当たりで「いくら稼いだか」というトップは、まちがいなく「ごんぎつね」だと思いますが、今回の宿題でそれが具体的に明らかになると言えるかと思います。『紀要』が発行されましたらお知らせしますので、「見たい」というかたは、その時にご連絡ください。