『日本児童文学』11・12月号 おまけの情報①

『日本児童文学』編集部

11・12月号が発行されました。特集は「クリスマスをよむ」で、クリスマスにちなんだ短編、掌編、マンガ、イラストエッセイ(ささめやゆきさんのイラストをカラーで見てみたい!)など盛りだくさんです。好評の「作家とLunch」は、令丈ヒロ子さんで、すでに中学生の頃から作家を目指していたというお話などが語られています。

 

さて、今号の「世界にひらく窓」では、翻訳家の宇野和美さんが、南米コロンビアの子ども事情について語ってくれています。現地で読書推進活動をしている方の体験談として紹介されている、スクールバスの発着点にあった小さな公共図書館で本と出会ったことで麻薬や暴力と無縁でいられたという話は、衝撃的です。やはり日本とはだいぶ異なる社会事情があるようです。

絵本『いっしょにかえろう』は、そんなコロンビアの作家ハイロ・ブイトラゴの作品で宇野さんが翻訳されました。女の子が花を一輪差し出して銅像のライオンに「いっしょにうちにかえってくれる?」とたずねる場面から物語は始まります。ライオンが女の子といっしょにいるのですから町は大騒ぎとなりますが、女の子は気にする様子もなく小さな弟のお迎えをした後、夕飯の買い物もし、夕食の準備までします。女の子はライオンの背にまたがったりもするわけで勇ましい感じです。

ところが、「ママが工場からかえってくるまでよかったらまってて」という場面では、向こうからやってくるママが描かれますが、その姿は疲れ切っています。去っていくライオンの後ろ姿に「かえりたくなったらかえってもいいけど・・・・・・」と言いますが、その後に場面を変えて「よんだらまたきてね」という言葉がつづきます。家族写真には写っている父親がなぜいないのか、はっきりとは描かれていません。コロンビアの社会事情があるのかもしれませんが、最後の場面に漂うさみしさ、心細さは、日本にもあるものです。

この絵本は、「風の川辺賞」を受賞し、IBBY米国支部の「2018年おすすめ海外の本」にも選定されました。ぜひともご一読ください。

(荒木せいお)