Zoomオンライン「日本児童文学」を読む会の報告

『日本児童文学』編集部

2023年11月10日(金)18:30~20:30 テーマ:7-8月号と9-10月号を読む

ホスト:奥山恵(編集長・評論家)

 

今回は「いま、図書館を訪ねて」特集の7-8月号と、「子どもの権利 よく休み、よく遊ぶ」特集の9-10月号の2冊を読む会でした。

参加者はUさん、Nさん、掌編「私とあの子の本」の作者の渡川浩美さん、作家とLunchに登場した指田和さん、創作時評担当の妹尾良子さん、相川編集委員、荒木編集委員、奥山編集長、そして記録係の編集委員小川の9人です。

 

【7-8月号の特集から】

7-8号は、論考はもちろん、創作も掌編募集も子どものつぶやきも、まるごと図書館特集です。

まずは相川編集委員から、「滋賀県で何年もかかって自分たちで図書館を創っていくとか、点訳を扱っている図書館があるとか、海外で図書館を守るために奮闘する子どもたちがいるとか、知らなかったことが多い。いろいろな地域で読者と本をつなぐ試みがある。手前味噌になるが、図書館というモチーフを通して、子どもの本に迫れたのではないか」という感想が出ました。

すると、他の参加者からも「2つの論文で日本と海外の違いがわかって面白かった」「論考は限られたスペースでよくこれだけたくさんの本を取りあげたと思う。まとめ方がうまい」「2本の論考により、文化のちがい、市民としての権利意識のちがいも感じた」「図書館を描いた本は子どもたちも好き。図書館が舞台の本がこんなたくさんあることがわかった」と相次いで感想が出ました。

また、「不登校のことが取りあげられていたが、図書館は授業に出にくい子どもたちの来る場所になっている」という学校図書館に勤務する方の実感のこもった感想も。

奥山編集長から「論考は日本と海外に分けて書いてもらった。日本と海外では

社会における図書館の位置のちがいもあるのではないか。海外は差別の構造がはっきりしているから誰にでも開かれた場所としての図書館の役割があるのではないか」との発言がありました。

そこから、図書館は本を読んだり、避難場所になったりしているが、そこに働

いている人の権利や立場は守られているだろうかと話が発展していきました。「本が好きだから資格を取って図書館司書になりたいといっても正職に採用されないことがある」と、夢を打ち砕くような現状も話されました。

「非常勤やボランティアで運営している」「働く人はほしいが、金は出せないといわれる」「図書館を指定管理にしようとする動きがある」「図書館は公共の財産。水と同じように文化も大切。それなのに見えないところで文化の土壌をむしばんでいるのはないか」「学校図書館法ができて、非常勤でもいいから学校図書館司書を入れることになった。1人で数校持っているから、それがいいかどうか……それでもいつでも図書室が開いていると子どもが来やすくなる。本と出会う機会が圧倒的にふえた。本を買ってもらえない家庭の子どももみんなと同じに本が読める」「志のある人が手弁当で頑張っている。安ければいい、便利になればいい、ではなく、自分たちの手に取りもどすことが大事」等々、厳しい状況が話されたり、希望が語られたりしました。

 

【「いま、図書館で」のアンケートや図書館を舞台にした掌編の募集について】

現役の司書の方たちに訊いたアンケートは好評でした。

「予算のことはみんな気になるところ。よく訊いたなと思った」「図書館のイメージが固定していたが、こんなにいろんな図書館がある。それが可視化された」「図書館の先生たちの生の声が聞けた。この本、面白かったといってもらえるのは作家にとって何よりの喜び。手渡してくれる人がいるから届く」「アンケートはリアルで面白かった。削減されてつらいのはうちだけじゃないとわかった」等々。

奥山編集長からは「予算を聞く項目を入れた。はたして答えてもらえるかと懸念したが、生々しく答えていただいた。公共図書館や学校図書館など規模に応じてちがいがあることがわかった」また、「アンケートやコラムで今の実態を拾いたいと思った。それと論考を重ね合わせてみていただけたら」と。

そういえば、掌編の「図書館のジャンヌ・ダルク」は、内川さんの論考中の「図書館は利用者の秘密を守る」(P26)にもつながります。

「私とあの子の本」は、「図書館で借りた本を覚えている」というところから、「本も借りてくれた人のことを覚えているのではないか」と発想して、創作したそうです。現実と空想がリンクしながら広がっていくのが楽しい作品でした。「じごくの図書館」は、視点がおもしろく、「図書館バスと風の本」は、さわやかで良いなあという感想がありました。それぞれに図書館と人とのつながりが描かれています。応募作95編のなかから選ばれた5編をお楽しみ下さい。

 

【作家とLunch 7-8月号と9-10月号】

7-8月号は広島市在住の中澤晶子さんへのインタビュー、9-10月号は鴻巣市在住の指田和さんへのインタビューでした。

せっかく作家とランチを一緒に食べているのだから、ふつうのインタビューではなく、もっとランチについての遊びを入れてほしいという意見をたびたびいただきました。今回は如何でしょうか?

広島の雁木タクシーや中州のアオサギの写真からも川と人とのつながりがうかがえるのではないでしょうか。ヴィーガン食の車麩も美味しそう。

そして、ノンフィクション作家で全国を飛び回っている指田さんの食卓は、地元埼玉の他に沖縄・岩手・三陸・水俣と、食材も全国規模。ちなみにインタビューは6月で田植えをしましたが、秋10月に稲刈りにも行ってきました。

広島というリアルな場所を描きつつ、ファンタジーという手法で被爆の問題に迫る中澤さんとノンフィクションというアプローチをする指田さん、お二人が並んだのは偶然なのですが、まさに「創作のひみつを探る」インタビューになりました。みなさんからも読み応えがあったと感想をいただきました。

 

【9-10月号の特集 子どもの権利】

9-10号は、秋の公開研究会(10月21日実施 会場:出版クラブ会館)のテーマ「児童文学と子どもの権利~子どもにとって『いちばんいいこと』ってなんだ」と連動した企画です。

公開研究会がどんな形になるかまだはっきりと固まらないうちに編集は進みます。そこで、編集委員会では「子どもの権利」のなかから、「第31条」の「休む・遊ぶ権利」を取りあげることにしました。

登壇者の方に論考をお願いする一方、児童文学の雑誌として「子どもの権利を考える」という視点からのブックガイドを編みました。絵本・詩歌・児童文学・一般書の各ジャンルから数点ずつ、古典や新刊、意外な本も挙げられました。

「むずかしくて、権利をどうとらえていいかわからなかった。あの本も権利の本か、そうか、そう読むのか……知っている本も多いので、そう読めるのかと思った」「図書館にかぎらず、仕事を描く本は生きがいとかやりがいにつなげることが多い。すると給料とか稼ぐとかいうことが描けなくなる」「日本の中で子どもから”ぼんやりする時間”が失われている」「よく遊べといっても遊ぶ場所がない」等々、公開研究会に参加した方もしていない方も、活発に意見を交わし合いました。また、「子どもの権利の前に、大人が自分の人権を守っていない。権利の話をすると嘲笑われる空気がある」という意見もありました。

 

【創作時評ほか】

創作時評は半年交代なので、一人3回の担当です。「幼年~中学年向け」を担当した妹尾さんは、編集部とやりとりして何回も書き直したとのこと。単なる紹介ではない時評を書くむずかしさを語られました。たくさん新刊が読めて良かったとも言っていただけましたが……「創作時評」や「同人誌評」は一番読まれているページです。担当者はたいへんですが、読者の期待は大きいのです。どうぞよろしくお願いいたします。

「最近、表紙とかタイトルも変わり、洗練された感じがしている」というご意見もあり、「本文の文字をもう少し太くしてほしい」という要望もありました。「全体的に編集委員のご苦労を感じます」というねぎらいもいただきました。

 

【ユニバーサルフォントや付録のことなど】

活字を「ユニバーサルフォント」にしてほしいという要望が出されていましたが、7-8月号の「扉」「アンケート いま、図書館で」「子どものつぶやき こんな図書館はいやだ!」の3カ所は、「UD ユニバーサルフォント」です。

このだれにでも見やすい活字を今後も少しずつ増やしていきます。

次回の「クリスマスをよむ」特集の「11-12号を読む会」にも、みなさま、どうぞご参加ください。

11-12月号は付録付き。北見葉胡さんの素敵なクリスマス・ツリーの表紙絵が、ポストカードになっています。ハッピー・ホリデー!  (記録係 小川英子)