わたしたちが著作権法に出会うとき
ここでは、実際に経験すると思われるケース別に、著作権(財産権)がどのように関わってくるのかを説明します。
作品を発表する
契約には様々な形態があります。以下は一般的な事例についての説明です。
【原稿を本にする】
●本(電子書籍含む)を出版する
本を出版する時、著作者は出版社と出版契約を結びます。
出版契約書では、通常、第一条が「出版権の設定」となっています。「出版権の設定」とは、著作者が自身の著作権のうちの複製権を出版社に一定期間許諾することです。このことで出版社は本の出版ができるようになります。電子書籍の場合は、さらに「公衆送信権」(著作権の一つ)を許諾することで、電子書籍の出版が可能になります。
もし出版社が契約を守らなかった時は、一定の手続きを経て、著作者は契約解除を申し出ることができます。
●絵本を出版する
作家と画家による絵本の場合は、共に著作権をもっており、二次使用、二次的使用(例えば翻訳、アニメ化)などの際には、両者の許諾が必要となります。但し、文章だけを全集などに収録するような場合は、作家のみの許諾で可能です。
特に、「作(文)」と「絵」を分けずに両者の「作」としているような絵本については、著作者は、著作権の取り扱いについて事前に充分に確認しておきましょう。
●編集著作物(アンソロジーなど)を出版する
いくつかの作品(著作物)を選択・配列することで作られた著作物を「編集著作物」といい、アンソロジーなどがそれにあたります。
収録作一つひとつにそれぞれの作者の著作権があるとともに、作品の選択や配列などに創作性があるということで、編集者にも著作権(編集著作権)が認められます。
「その素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する」(著作権法第12条抜粋)
編集著作権は、個々の作品の著作権をしばるものではありません。
ですから、アンソロジーに発表した作品を、後に自分の短編集に収録することは、基本的に自由です。
ただ、この場合、出版契約の関係※から、実際にはアンソロジーの出版社の同意が必要なケースが多いようです。必ず確認するようにしましょう。
※著作権の「二次使用」に関係します(二次使用の場合)
【原稿を雑誌や新聞などに掲載する】
●商業誌に掲載する
作品やエッセイ、論文などを雑誌や新聞などの商業誌に掲載する場合、特別な契約がない限り、出版(新聞)社に、「1回限りの複製権を許諾した」ということになり、出版社が勝手に転用することはできません。
後に、作品や論文を出版する場合、最初に掲載した出版社などの許可を得ることも、基本的には必要ありません。
※出版社が雑誌に作品を依頼する場合、後に自社から本として出版する意図を持っているときがあります。つまり、その社の優先的な複製権を認めるという前提で作品が依頼されることもあります。依頼の際、社に確認するとよいかと思います。
ただ、雑誌(新聞)掲載により、作品発表の機会が与えられたわけですから、出版の際にはその旨を社に報告し、また読者に対する情報の上からも出版物に初出を記載することが望ましいと思います。
●同人誌に掲載する
同人誌は、通常、発行主体が自分も含む同人グループですから、そこへの掲載は、「複製権」を自分で行使していることになります。ですから、掲載作品の使い方については、なんら制限は受けません。
【注意!!】
コンクール応募の際は、同人誌にすでに掲載されたものを不可とする場合がありますから、確認が必要です。
すでに発表された作品が使われる
すでに発表された作品が、別のところで使われること(二次使用)や、別の形態で使われること(二次的使用)があります。
児童文学は、その短さや親しみやすさ、また教育や児童文化に関わる種々のメディアとの関連から、大人の文学以上にこうした使われ方が多いのが特徴といえます。
しかし、初出の場合に比べて、あいまいな処理で済まされているケースも多く、これらの作品使用のルールについて、充分に知っておく必要があります。
ここでは、二次使用と二次的使用についての説明と、次にその許諾について説明します。
作品がそのままの形で別のところで使われることを一般に「二次使用」といいます。
《例》
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単行本で出した本が他社から文庫本で出版される。
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自分の短編集に発表した作品が他社のアンソロジーに収録される。
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自分の詩集の中の1編が朗読のテキストに採用される。
通常、作品は、契約した出版社だけがその作品を出版できます。
ですから、他社で二次使用する場合には、著作権者の許諾、(契約期間中は)契約している出版社の同意が必要になります。
もし、許可をしていない二次使用があった場合は、直ちに使用者に説明を求めましょう。場合によっては、ペナルティーも含めた著作権使用料も請求できます。許諾申請の仕方については
【許諾について】を参照してください。
【例外規定……教科書への掲載】
著作権法では、学校で使用する教科書(教科用図書)に、すでに発表している作品を掲載する場合は、許諾は必要なく、著作者に「通知」すれば使うことができるとされています。また、この場合には著作者の同意なく、作品の改変も可能です。もちろん、無償ではなく、著作者には教科書補償金が支払われます。
※著作権法第33条「教科用図書への掲載」
ただ、現実には、教科書会社が改変も含め事前に著作者の了解を得る場合がほとんどのようです。
※2018年度から、道徳が教科になり、大幅にダイジェストされた作品が掲載されています。許諾にあたっては、この点も事前にチェックした方がよいでしょう。
【注意!!】
ここでいう「教科書」は、学校教育法で定められた正式なものを指します。
副読本や塾のテキストなどは該当しません。著者の許諾が必要です。
作品が別の媒体や、異なる形で使われることを「二次的使用」といいます
《例》
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別の媒体で使われる例:朗読、放送
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異なる形で使われる例:翻訳、ダイジェスト、劇・映画の原作として
著作者は二次的使用の許諾権をもっていますが、実際には、著作者が二次的使用の許諾についてどのような出版契約を結んでいるかによって、以下のように許諾の対応が分かれます。
●出版社が代理で対応する場合……出版契約書の確認
作品を使う側が著作者に許諾を得ようとする場合、出版社に連絡をとる場合が多く、出版社が窓口となって著者の意向を確認して許諾を出します。
それは、契約書に「甲(著作者)はその使用に関する処理を乙(出版社)に委任し」というように記されていることによるものです。
この場合、出版社に交渉を委任するのが一般的です。
【注意!!】
出版社が交渉において自社の利害を優先させることもないとは言えません。
このような場合に備えて、94年に出版契約書のひな形が作成されました※。そこでは、「甲はその使用に関する処理を乙に委任することができる」と、作者側の判断で出版社を窓口とするかどうかを選べるようになっています。
※児童文学者協会を含む子どもの本の著作者三団体と、日本書籍出版協会児童書部会(児童書の出版社の大半が加盟)とで構成する四者懇談会(現、児童書出版者・著作者懇談会)で94年に作成。
しかし、一方では、「独占的に許諾する」という文言の契約書もあり、出版契約書を交わす場合には、特に二次的使用の条項について、きちんと確認しておく必要があります。
● 著作者が自分で対応する場合……「作品使用についての申し込み書」の活用
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地元の雑誌に書いた民話が紙芝居にされた
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ホームページに掲載した作品が翻訳された
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私家版の本の二次的利用
上記などの場合は、著作者自身で許諾や条件の対応をすることになります。
この場合、事前確認があいまいだと、許諾が相手に拡大解釈されたり、使用料が支払われないなどのトラブルになる可能性が多くあります。
また、相手が知り合いだと使用料などの交渉がやりにくいということもあるかと思います。
この申し込み書を相手に送付して、記入してもらうことで、きちんとした事前確認、交渉ができると思います。
●団体間で対応が行われている場合(教材の例文使用)……送付されてくる許諾申請書を確認
作品がテスト教材の問題文として使われる場合
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文章はそのままという点では二次使用(の部分使用)
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問題がつけられて別の著作物になるという点で二次的使用
と、著作権的には2つの面があります。
いずれにせよ、著作者の許諾と使用料支払いが必要になります。
これについては、教材会社の団体と著作者の団体との間で協定が結ばれ、それに基づいた許諾申請がひろく行われています。
●個人で対応しにくい場合……日本文藝家協会への委託を!
二次的使用については、使用料のチェックや交渉など、個人で対応するには煩雑で、困難な面が少なくありません。
このような場合には、自分の著作権の管理を、専門的な団体へ委託する方法があります。
日本児童文学者協会では、日本文藝家協会著作権管理部への委託をお勧めしています。二次的使用については、すべてここが窓口となって対処してくれます。(テストの例文使用など教育関係に限定した委託も可能です)。
委託費は不要ですが、著作物使用料の8パーセントの手数料が必要です。委託方法など、詳しくは、日本文藝家協会(03-3265-9657)にお問い合わせいただくか、ホームページをご覧ください。http://www.bungeika.or.jp
出版社と出版契約を結ぶ際には、「二次的使用については日本文藝家協会に委託しているので、二次的使用を出版社に委託しない」ことを申し出る必要があります。
作品などを使用する
わたしたちは仕事の上で他の人の証言や著作物を参考にしたり、使用したりする側に立つことも少なくありません。また、著作権とは別にプライバシー保護などの観点から注意すべきこともあります。ここでは、そうした場面の著作権とその注意点を説明します。
【取材、聞き書きなどをする】
●対象者に許諾を得る
作品を書く上で、他の人に取材する場合には、その取材の目的を相手にはっきりと了承してもらい、許諾を得る必要があります。
《例》
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創作のために参考資料を集めたい。
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執筆するノンフィクションに証言をそのまま使用したい。
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取材対象の名前を掲載したい。
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ただし、そのように取材して書いた作品でも、著作権はあくまで作品を執筆した著作者個人のものです。
【注意!!】
以下の場合には、著作権者の特定が難しくなります。
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証言や民話の語りなどの録音
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講演の記録。
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SNSをふくめブログなどでの詳細な記録。
本人の許諾なしにこれを公の場で再生したり、記録として発表したりすることはできません。
話すこと自体に口述権(著作権の1つ)が認められ、これを許可なしに公表することは公表権(著作者人格権の1つ)の侵害になるからです。
これらを紹介する場合には、事前に許諾を得る等、充分な注意が必要です。
【著作物を「引用」する】
著作物を利用する場合は、原則として著作権者の許諾が必要ですが、一定の要件を満たせば「引用」として許諾なしに著作物を利用することができます。(著作権法第32条)
しかし、「引用」には明確な要件があります。「引用」する場合には、これら要件を遵守するようにしましょう。
●「引用」の要件
①引用する著作物が「主」で引用される著作物が「従」の関係にあること。
たとえば、引用される著作物の量が引用する著作物の量をはるかに超えている場合は、主従がわからなくなり、「引用」とはいえなくなる可能性があります。
②本文と引用部分が明確に区別されていること。
行をあけたり、引用部分をかっこでくくったりして、ちがいが明確にわかるようにします。
③出典(誰の文章をどこから引用したかということ)の明示。
著作者、著作物名、該当ページ、発行元、発行年月日などを明示します。ホームページなどネット上のものは、URLなど特定できる情報を記しましょう。
以上の要件に加えて、引用は公正な慣行に合致して行われなくてはなりませんし、引用できる著作物は公表されたものに限られます。引用が引用の目的上正当な範囲内であるかどうかも問われます。
こうした点をクリアーしないで他人の著作物を引き写した場合は、無断使用、場合によっては盗作といった著作権侵害になる恐れもあり、注意が必要です。
【楽譜や歌詞の引用について】
楽譜や歌詞については、日本音楽著作権協会(JASRAC)などがほとんどの著作権者の委託を得て、その使用についての管理を行っています。
これらの引用については、JASRACのホームページ(jasrac.or.jp)などで、その扱いをご確認ください。
はじめに
著作権とは
わたしたちが著作権法に出会うとき
原稿料と印税
作品使用についての申し込み書
著作権関係団体
著作権管理業務を行っている著作者団体
広報・普及などの団体・関連官公署
チェックポイント
著作権ガイドQ&A