平和を考えるために今子どもたちに手渡したい本 第四回 西山利佳さん
短編アンソロジー「おはなしのピースウォーク」全六巻(2006~2008年、新日本出版社)
「文学のピースウォーク」全六巻(2016~、新日本出版社)
12月8日があり、ノーベル平和賞の授賞式があり、戒厳令をはねのけた韓国があり……「平和」を考えさせられ、自分の薄っぺらさを直視させられる日々です。
さて、今回私が取り上げるのは上記二つのシリーズです。共に、我らが日本児童文学者協会編。「おはなしのピースウォーク」は日本児童文学者協会創立60周年記念として、「文学のピースウォーク」は日本児童文学者協会創立70周年記念として、出版されました。しかし、どちらも、最初から出版を想定していたわけではありません。これらの企画の立ち上げから全般を担った「新しい戦争児童文学」委員会メンバーのひとりとして、ごく簡単にはなりますが、経緯を記しておきます。
ことの発端は2003年の自衛隊のイラク派遣です。児文協では子どもたちの未来を脅かす動きに対して、さまざまな声明を発表してきました。しかし、子どもの本の書き手の団体なら、声明を出すだけでいいのか、作品で対峙すべきではないのか、という問題提起が起こり、それに対して古田足日さんが中心となり「新しい戦争」児童文学委員会が作られ、作品募集と応募作品や既存の戦争児童文学作品を読み合う合評会を始めました。ホチキス留めの冊子を作り、読み合い、討論する……それを重ねました。これまでの戦争児童文学に何が足りないのか、どんな作品を求めるのか、素材、視点、表現方法を問う作業は、自分たちの文学観、戦争観を問い直し、獲得し直していく厳しい作業でした。協会の創立60周年、70周年という冠を付けられるタイミングに助けられ、当初思いもしなかったボリュームで出版にこぎ着けたわけですが、私たちは表紙や解説にも、心を砕きました。私は、「おはなしのピースウォーク」第一巻『まぼろしの犬』の「おわりの発言」を、次のように結びました。
このシリーズの「ピースウォーク」ってわかりますか。「私たちは戦争に反対です」と大勢で道路を歩いてアピールすることです。世の中に「戦争反対」という意見を持っている人がたくさんいることを、見える形にするのです。いま、この本は六つの作品がそれぞれのプラカードを掲げてピースウォークしているのです。私は、「おわりの発言」という形で、列に加わっています。この本に関わったたくさんの人も、そして読んだあなたも、このピースウォークの参加者です。あなたが、誰かにこの本を読んで考えたことを話したり、一緒に読みあったりしたら、また一緒に歩く人が増えるわけです。
この平和作りの行進に、どんどんどんどん人が加わりますように!
書くことが、本を作ることが、読むことが、論じ合うことが、私たちに出来る平和作りの運動なのだと、改めて肝に銘じたいと思います。前回小手鞠るいさんから問われた、天皇の戦争責任、天皇制という構造を子どもたちにどう語ってきたのか、語れていないのか、何をどう語る必要があるのか、大きな大きな宿題もあります。
そしていま、当会関西センター有志による「かくよむWAR」の取り組みを心強く拝見しています。
ひとり悶々とするより、仲間と歩き出さねばと、来る戦後80年の2025年を前にした年末の所感です。
https://jibunkyo.or.jp/old2/atarashii.htm
「文学のピースウォーク」
*那須正幹作 ; はたこうしろう絵『少年たちの戦場』 2016.5 解説:古処誠二
*濱野京子作 ; 白井裕子絵『すべては平和のために』 2016.5 解説:丸井春
*今関信子作 ; ひろかわさえこ絵『大久野島からのバトン』 2016.6 解説:渡辺賢二
*中村真里子作 ; 今日マチ子画『金色の流れの中で』 2016.6 解説:落合恵子
*高橋うらら作 : 黒須高嶺絵『幽霊少年シャン』 2016.7 解説:小澤俊夫
*みおちづる作 : 川浦良枝絵『翼もつ者』2016.7 解説:私市保彦
参考:古田足日「「新しい戦争児童文学」をもとめる」『現代児童文学を問い続けて』(くろしお出版、2011年)