「今の児童書 私の推し」第8回 押川理佐
皆様、ごきげんよう!
今年度最後のバトンを受け取りました、押川理佐です。
前回、松本聰美さんが推されたのは、にしがきようこ作『アオナギの巣立つ森では』(小峰書店)でした。
奥多摩の山林、刀匠を夢見る少女、オオタカのヒナの巣立ち……と、魅力的なモチーフに彩られたリアリズムの世界に圧倒されました。
さて、今回私が推すのは、西沢杏子作『さくら貝とプリズム』(東逸子・絵 銀の鈴社・刊 ジュニアポエム双書297)。
こちら、思春期がテーマの詩集。
タイトルのさくら貝のような、乱暴につかむとパリンと割れてしまう繊細さと、美しいプリズムのような光の輝きに満ちた世界が層をなしています。
冒頭の詩、「ヤマネのぬいぐるみ」は、何かの理由で泣いていた少女の詩ですが、ラストの、
「もう。/ 昨日の続きなんかを/泣いてはいられない」
に、いきなりしびれる。
そう。昨日の私と今の私は、ぜんぜん違う。
最初にこの詩に迎えられ、ロックな気分で以降のページをめくっていくと……、
混沌とした将来に不安と期待をふくらませたり。
最も身近な人との感性の違いに気づいたり。
猫を愛したり……。
読み進むうち、読者は、自分の中の井戸の底~の方に沈んだままだったガラスの欠片をいつしか握りしめていて、ああこれは、と磨き始めるうち、それが小さなプリズムだったと気づく。
そこに、詩「プリズム」が待っています。
「あなたとわたし/絶望する理由を/一つずつ抱えてしまっても/わたしたちのなかのプリズムが/淡い月の光で隈どってくれるよ」
この美しい、淡く儚い、でもその瞬間は何よりも強く、永遠の友情、愛情。
ああ、この詩集、今の10代にもお勧めですが、思春期をいつの間にか井戸の底に沈めてしまった大人たちにも、読んでほしい……。
そんなことを思いました。
リレーはここで1周!
この企画、おかげさまでご好評頂いているそうですので、2周目があるかも。
乞うご期待!🌟