「今の児童書 私の推し」第7回 松本聰美

子どもと読書の委員会

こんにちは。今回バトンを受け取ったのは、松本聰美です。

前回、加藤純子さんが推されたのは、森川成美作『かわらばん屋の娘』(くもん出版)でした。
「今の児童書 私の推し」第6回 加藤純子 – 日本児童文学者協会 (jibunkyo.or.jp)

紹介されて、すぐに読みました!
人魚の像を抱かえた「吟」と共に、江戸の町を走っているような気がしました。

 

さて、今月私が推すのは、にしがきようこ作『アオナギの巣立つ森では』(小峰書店)です。
こちらは現代の東京が舞台です。

東京といっても、ビルが立ち並び地下鉄が縦横に走る「東京」ではありません。電車が一時間に2本、その電車に乗って小学校に通う児童もいるという山深い「東京奥多摩」が舞台です。

主人公「あおば」は、将来何になりたいかと問われてもはっきりと答えられないごく普通の小六男子。
ふとしたことから電車通学組の女子、梛(なぎ)とかかわりを持つようになります。

梛は学校では浮いた存在。刀匠になりたいという強い思いを持ち、自分のことを「わし」と呼びます。
平凡な男の子と超個性的な女の子。この二人が、オオタカのひなを見つけるところから物語は大きく動き始めます。

 

二人の脇を固めるのは、日本でただ一人という女性刀匠の梛の母、ひなを密猟者から守るために何週間も森にテントを張り監視する自然保護活動家、などなど魅力的な大人たち。

こういった大人たちの様子が、実にリアルに描かれています。知らなかった世界を覗き見るような感覚を覚えました。

特に、梛の母が真っ暗な中で刀を作っていく場面は、圧巻です。火花が見えるようでした。

 

作者はどのように取材をして、このお話を書かれたのだろうと興味津々。

裏話が聞きたいところです。

 

ストーリーや緻密な描写だけでなく、読み終わったあと私の胸に強く残ったのは、「奥多摩」の空気感でした。

のびやかで自由で、大きく深呼吸したくなるような、そんな自然の力を感じさせる一冊です。
アオナギの巣立つ森では – 子どもの本の小峰書店 (komineshoten.co.jp)

次回は、このシリーズのアンカー、押川理沙さんです。お楽しみに!