岡山セミナー通信 No.2 ~文学散歩―後楽園周り・ぐるっと一周~

組織部

児童文学者協会の全国大会が、来秋に岡山市の就実大学を会場に開かれる。坪田譲治の出身地であるだけでなく、現在活躍しているあさのあつこ、小手鞠るい、原田マハ、重松清、八束澄子、村中李依、天川栄人氏たちも岡山が誇る作家の方々であり、この地で児童文学が語られるのは嬉しいことだ。

私は、学校図書館に長年関わってきて、本と子どもたちを結びつけることを中心に活動をしてきた。岡山を訪れる皆さんに大会中に楽しめる文学散歩を今日はお勧めしてみたい。

 

就実大学から、10分ほど南に歩くと、そこは全国三大公園のひとつである後楽園があり、その南は岡山城である。そしてその周りは、県立図書館や県立美術館、博物館、オリエント美術館などもあるカルチャーゾーンでもある。

後楽園入口手前の「夢二郷土美術館」から出発しよう。

 

竹久夢二は岡山市の東隣の瀬戸内市で生まれた。橋を渡ったところにあるバス停の前には夢二の碑「待てど暮らせど来ぬ人を 宵待ち草のやるせなさ」が建っている。

 

後楽園内に入らず蓬莱橋を渡る。原田マハの『でーれーガールズ』の表紙はここ。映画にも登場する。原田マハは中学・高校時代を岡山で過ごしている。昨年出版された天川栄人の『おにのまつり』でも中学生たちがこの橋を渡って県立図書館に温羅のことを調べに行く。お城に向かって歩いていくと山田耕作の碑。少年時代をこの辺りで過ごしたのだという。

旧市民会館を右手に見ながら進んで岡山城へ。

この石垣をバックに「カムカムエブリバディ」(昨年のNHK朝ドラ)「あぐり」(吉行淳之介の母あぐりを主人公にした朝ドラ)も撮影された。岡山城は改装されたばかりで美しい。

 

お城を下ると目の前は県立図書館である。

岡山県立図書館は全国一の貸し出し数を誇る。県立図書館の、道路を隔てた南側は岡山県庁。その東側に旭川が流れている。「文化の小径」とも名づけられる土手を南に歩いていくと、猫の碑がある。「生きて仰ぐ 空の高さよ 赤蜻蛉」夏目漱石が訪問した兄嫁の家がこの近くにあったそうだ。そのまま南下して京橋朝市が開かれる場所の南端に、住宅顕信「水滴の一つ一つが笑っている顔だ」の碑。早世した自由律の俳人で、存命ならば今60歳くらいの方だ。この土手の辺りを、1945年6月29日に高畑勲は空襲を逃れて走り回っていたという。その光景がジブリのアニメ映画『火垂るの墓』と重なる。

東へ京橋を渡る。この橋を映画『8年越しの花嫁』では佐藤健がバイクで走っていた。

 

旭川沿いを北に向かう。2023年に岡山芸術劇場「ハレノワ」に統合された岡山市民文化ホールを過ぎて北に行くと、内田百閒句碑園がある。「春風や川浪高く道をひたし」。ここから東に行けば百閒の生家跡やお墓にも行けるのだが、そのまま北上すると、桜並木の向こうに岡山城、後楽園も見える。

後楽園の南端の「水辺のももちゃん」の東の辺りがHNK朝ドラ「カムカム~」の撮影場所だ。ラジオ体操、自転車の練習など印象的な場面がいっぱいだった。この桜並木の土手下は原田宗典の『17歳だった』などにも書かれるデートコースでもある。

そして、右前に夢二郷土美術館が現れる。ぐるっと一回り。楽しい文学散策である。

今、岡山市は、「文学創造都市岡山」としてユネスコにも申請しているところである。その一端を味わっていただきたい。

高見京子