117、とても有意義な公開研究会でした(2023,10,25)

理事長ブログ

【10月21日に】

・前回の最後にも書きましたが、今年の公開研究会が、10月21日に出版クラブ会館で開催されました。参加申し込みの出足があまり良くなくて心配しましたが、最終的には会場参加が60名ほど、リモート参加が50名ほどで、総数としてはまずまずというところでした。ただ、できればリモート参加がこの倍くらいになってほしかったなと思っていましたが、終わってみて、とてもいい中身だったので、余計にそう思いました。

中身については、研究部のブログや次回の会報でも紹介されるでしょうが、正直シンポジウムというのは、なかなかうまくいくケースは多くありません。今回、聞いていていいなと思ったのは、黒川裕子さん、村上雅郁さん、梨屋アリエさんの三人の作家が、今回のテーマである「子どもの権利」という問題を大上段に構えるのではなく、自身のモチーフと重ねて、言い換えればそれぞれに“自分の言葉”で語ってくれたことが大きかったように思います。野坂悦子さんのオランダの子どもたちをめぐるお話は、日本との大きな違いを実感させるものでしたが、それでもいろいろな問題があるという指摘は、こういう問題に100%の答があるのではなく、不断に取り組んでいかなければならない課題であることも感じさせてくれました。

最初の発言者の黒川さんが、開口一番(だったか)「私は、子どもの頃に怒ったことを、昨日のことのように思い出せる(それが今、創作のひとつの源泉になっている)」というようなことを話され、次の村上さんが、「僕は子どものころ、自分の感情をうまく表現できなかった。それを今、言葉にしようとしている(※僕なりに受けとめた意味なので、黒川さん、村上さんご自身の言葉とは違うかもしれませんが)」と話されて、それぞれの作品と合わせながら、とても腑に落ちる感じでした。

・今回の公開研究会にはいろいろ工夫がなされていて、その一つは、事前に子どもたちに「1時間おまけの時間があったら、なにをしたいですか?」「おとなに言いたいことがあったら、自由にどうぞ」といった項目に答えてもらって、それについてパネラーからコメントしてもらう、といった時間もありました。その中で、「おまけの時間があったら」への回答で、「ゲームをしたい」という答えがかなり多かったことを巡って、この日の講演者の増山さんから、本当に自由な時間を持てれば、子どもたち自身が創造的に活動を組み立て始めると、ご自身のキャンプ活動などでの体験を話され、ゲームはやはり大人が作ったもの、というふうに言われたのですが、その後に、村上さんが、「児童文学も、やはり大人が作ったもの」と言われたのが、印象的でした。

・僕のこの日のお役目は開会挨拶でしたが、その中で、「僕ら児童文学に関わる者は、自分が“子どもの味方”だと無条件に思い込んでいるところがあるけれど、この研究会で、「子どもを見る目を問い直す」と共に、そうした自分自身を問い直す契機にもしたい」というようなことを言いました。「子どもを見る目を問い直す」というのは、古田足日さんが1980年代に出した講演集のタイトルでもありましたが、今回の公開研究会のサブタイトル「子どもにとって「いちばんいいこと」ってなんだ」というのも、そうした問題意識と重なってくると思います。公開研究会を見逃してしまった、という方は、『日本児童文学』9・10月号に、講演者の増山均さんを始め、パネラーの方たちの作品やエッセイが並んでいますので、そこからでも充分栄養補給ができると思います。

【五十数年ぶりに】

・さて、これは前に書いたと思いますが、今回の講演者である増山均さんとは、お互いの学生時代、今から五十数年前に出会っています。このことも開会挨拶で触れましたが、僕は秋田大学教育学部の学生時代、セツルメントというサークルに入っていて、当時全国学生セツルメント(全セツ連)という組織がありました。その東京での大会に出かけた時に、議長席に座っていたのが増山さんでした。以下は開会挨拶では話せませんでしたが、当時学生運動が盛んな時期でしたが、全セツ連でも、言わば主流派と反主流派がおり、大会前の(各セツルメントの代表だけの)会議では、かなり激しい論争が交わされました。僕もかなりに(当時から)発言する人だったので、増山さんとはなんとなく“同志的”つながりを感じていて、その後の彼の研究者としての活躍を、さすがと思いながら見ていました。二十年以上前にチラッと会ったことはあるのですが、今回、研究会の前や、その後の懇親会でじっくり話し合えて、感慨深いものがありました。

【次回は、休みにさせていただきます】

・さて、次回は通常だと11月5日になりますが、この日、僕は秋田県の八郎潟町で、斎藤隆介の「八郎」について講演をする予定です。その翌日には、秋田の北と南を結ぶ秋田内陸鉄道線というのに、初めて乗ることにしてたいます。その前後も、いくつか賞の選考委員会などがあるので、次回は11月15日にさせていただきます。秋田(だけではありませんが)では、今年クマの被害が多くなっていますが、内陸鉄道線はまさにクマの“本場”でもあるので、気をつけて(たまに秋田新幹線がクマとぶつかって遅れることもあります)行ってきます。