ボロルマーさん、ガンバートルさんと私 国際部・野坂悦子
バーサンスレン・ボロルマーさんとの出会い――それは、2004年の野間国際絵本コンクールでグランプリを受賞した『ぼくのうちはゲル』1)を通してでした。モンゴルの家族の伝統的な暮らしが、土の匂いを残した力強く鮮やかな色彩と形で描きだされ、個性的な表現に驚きました。その後、長野ヒデ子さんのご尽力により、石風社から絵本として出版されたことを知ってどんなに喜んだことか。すっかりボロルマーさんのファンになり、各地での原画展に通いはじめ、夫のイチンノロブ・ガンバートルさん(愛称ガンバさん)の絵にも出会うことができました。馬の絵が大好きな私は、ガンバさんのファンにもなってしまったのです。
おふたりが苦労を重ねて『モンゴル大草原800年』2)の絵本に取り組んでいたころ、編集を担当していた唐亜明さんは、ちょうど私の創作絵本『カワと7にんのむすこたち―クルドのおはなし』3)の担当編集者でもありました。二作が同時に進行していたせいか、おふたりの話を、唐さんからよく聞いていました。丹念に資料を当たり、完成まで6年の月日をかけたその歴史絵本は、ボロルマーさんとガンバさんの代表作といえるものになりました。
また私には、モンゴルとのつながりが大変深い、宇田祥子さんという親しい知人がいます。あるときボロルマーさんやガンバさんの話題を出すと、大の仲良しだとわかって、本当にびっくり! 世間は狭いものですね。いくつものそんな接点のおかげで、私はおふたりのことを、ずっと身近な存在に感じてきました。
心に残る思い出は、2013年のシンガポール訪問です。毎年、シンガポールでは、世界各地から関係者が集まる国際イベント、AFCC(The Asian Festival of Children’s Content)が開催され、その年は私も紙芝居の発表のために現地に向かいました。すると、Singtel Asian Picture Book Award 2013の発表に立ち会おうと、おふたりも現地にいらしたのです! この絵本賞におふたりは『Old City』(未邦訳)という作品で応募。ガンバさんは作家部門で入賞を果たし、ボロルマーさんはイラストレーター部門で最優秀賞を獲得しました。会場で、おふたりと一緒に撮影した写真が残っています。
左から作家の末吉暁子さん、ガンバートルさん、ボロルマーさん、偕成社編集者の別府章子さん、筆者、絵本作家の児島なおみさん。
児島さんの案内でシンガポールの街にくりだし、みんなで遊覧船に乗り、ショッピングを楽しみ、名物チキンライスに舌鼓を打ったのでした。
ところで、私が活動している紙芝居文化の会は、平和を願って共に紙芝居を演じようと、12月7日を「世界KAMISHIBAIの日」に定め、世界中の人に参加を呼びかけています。2018年、第一回目のイベントで、おふたりに『ゾウとネズミ』4)の日本語とモンゴル語での実演をお願いすると、すぐにOKのお返事が。モンゴル語を初めて聞く参加者も多く、東京会場のブックハウスカフェは大きな拍手に包まれました。翌年も、『おじいさんとトラ』5)の実演でご協力いただきました。(またぜひ実演をお願いしたいと思っています!)
ガンバさんが文を書き、ボロルマーさんが絵を描く絵本の中には、モンゴルの草原の風や光、人びとの暮らしが息づいています。絵本を通して、モンゴルの暮らしの原風景を味わえるのは本当に幸せなこと! 日本とモンゴルをつなぐおふたりの活動は、子どもたちはもちろん大人の私たちにとっても、かけがえのない宝物です。
10月15日に国際部が主催する「モンゴルの絵本と児童文学の集い」では、そんなボロルマーさんとガンバさんの絵本の話、さらに翻訳者の津田紀子さんのお話も、たっぷり聞くことができます。ひとりでも多くの方に参加していただければと、お声掛けを続けています。
大きく成長したボロルマーさん、ガンバさんとの再会が、今からとても楽しみです!
野坂悦子(オランダ語翻訳、大学講師)
【書誌情報】
1)『ぼくのうちはゲル』(バーサンスレン・ボロルマー文&絵/長野ヒデ子訳/石風社/2006年)
2)『モンゴル大草原800年』(イチンノロブ・ガンバートル文/バーサンスレン・ボロルマー絵/津田紀子訳/福音館書店/2018年)
3)『カワと7にんのむすこたち―クルドのおはなし』(アマンジ・シャクリー&野坂悦子文/おぼまこと絵/福音館書店/2015年)
4)『ゾウとネズミ』 (イチンノロブ・ガンバートル脚本/バーサンスレン・ボロルマー絵/津田紀子訳/童心社/2013年)
以下のリンクで、実演風景の一部を動画で見ることも可能。
https://www.kamishibai-ikaja.com/movies/WKD-elephant-and-mouse-short.mp4
5)『おじいさんとトラ』(イチンノロブ・ガンバートル脚本/バーサンスレン・ボロルマー絵/津田紀子訳/童心社/2014年)