弱者救済に逆行するインボイス制度の中止を求めます (共同声明)


2023.8.28

共 同 声 明

弱者救済に逆行するインボイス制度の中止を求めます

 

協同組合日本脚本家連盟          理事長 鎌田 敏夫
一般社団法人日本児童文学者協会      理事長 藤田のぼる
協同組合日本シナリオ作家協会   理事長 ハセベバクシンオー
協同組合日本写真家ユニオン       代表理事 村田 三二
公益社団法人日本図案家協会        会 長 林  史己

 

 私たちは、著作者の団体であり、団体を構成するメンバーのほとんどが個人事業者です。また、その多くが免税事業者に該当します。2023年10月1日より導入が予定されているインボイス制度の影響が余りにも深刻であることから、その導入の一刻も早い中止を求め、以下のとおり意見を表明します。

 

インボイス制度は弱者救済の消費税緩和政策から始まった

 新型コロナ禍前の2019年10月に、消費税率を8%から10%に上げる際の、弱者救済のための逆進性「緩和政策」として実施されたのが、軽減税率制度です。
平成28年度(2016)税制大綱には「消費税の軽減税率を、(中略)導入する。あわせて、複数税率制度に対応した仕入れ税額控除の方式として、適格請求書保存方式(いわゆる「インボイス制度」)を(中略)導入する」とあります。つまり、インボイス制度は、軽減税率制度とともに導入された制度です。

免税事業者も消費税を負担している

 中小企業庁は、免税事業者は消費税転嫁対策特別措置法(2021年3月31日失効)に基づき、「免税事業者も仕入の際に消費税を負担している」として、免税事業者への消費税転嫁の指導をしていました。しかしながら、導入予定のインボイス制度により免税事業者は、更なる消費税を負担するおそれがでてきました。

インボイス制度は弱者である免税事業者に収入減をもたらす

 今回のインボイス制度導入に際して、免税事業者は「適格請求書発行事業者」になるか「免税事業者」のままでいるかの選択を迫られます。
免税事業者が「適格請求書発行事業者」になった場合、経過措置により3年間は20%納税、その後は簡易課税等による納税となりますが、免税事業者にとっては実質増税による収入減となります。
また、「免税事業者」のままでいる場合にも、消費税転嫁を求めることはできますが、その場合、支払者は負担増(仕入税額控除不可)となり、免税事業者への発注を忌避するおそれがあります。
結果として、免税事業者は発注を失うか、「適格請求書発行事業者」を選択して課税事業者になるか、いずれの場合も収入減は免れません。
財務省によると、消費税の免税点制度は、「小規模な事業者の事務負担や税務執行コストへの配慮から設けられている特例措置」と説明していますが、インボイス制度により、免税事業者の事務負担や税務執行コストはより大きくなります。導入予定のインボイス制度は小規模事業者の事務負担に配慮する目的で設けられたはずの事業者免税点制度をも有名無実化することになります。

コンテンツ創作の循環が止まる

 新型コロナ感染症の拡大以降、特に、エンタテインメント・芸術分野に携わる個人事業者は大きな打撃を受けました。収入が大きく減り、疲弊しているところに、物価高騰がさらなる追い打ちをかけています。個人事業者には賃上げもありません。業界全体が疲弊している経済環境下では、料金の値上げもできません。
内閣府の知的財産推進計画2023において、クリエイター主導の促進とクリエイターへの適切な対価還元、コンテンツ創作の好循環を支える著作権制度・政策の改革等が重点施策として掲げられています。
しかしながら、インボイス制度は、それら施策にも逆行するものと言わざるを得ません。

 

コンテンツ流通にも影響が迫る

 発注元にしても、インボイス制度への対応を検討する段階になり、制度の曖昧さと複雑さに個人事業者への対応に苦慮している事業者も多くあると聞き及んでおります。
また、著作権を管理している著作者の団体では、著作権の承継者(遺族等)を含む多くの免税事業者に著作物使用料等を支払っていますが、それらの方々との関係はいわゆる一般的な受発注取引ではなく、また、団体の規模的にも個別に交渉することは不可能なことです。個々の交渉を経ない場合、公正取引委員会による指導を受けるといった事例もすでに発生しています。当然のことながら、大企業のように免税事業者の消費税負担分を団体自らが負担することも、その事業規模からして不可能です。さらには、導入予定のインボイス制度対応のためのシステム改修費用について、団体の事業規模に比して余りにも高額な負担を強いられる場合も生じており、このままでは、国内のコンテンツ流通に支障を来すおそれがあると言っても過言ではありません。

一刻も早い実施の中止を

 導入予定のインボイス制度は、多種多様な事業態様が存在するにもかかわらず、制度設計が非常に大括りで、導入を間近にして、実際に作業にあたる現場が混迷を深めていることは明らかです。
多くの地方議会でもインボイス制度の実施延期を求める意見書の可決が相次いでいます。
私たちは、弱者である免税事業者にとって、実質増税となるインボイス制度の導入に反対し、さらなる混乱を回避し、今ある混乱を収束するために、一刻も早い、実施の中止を求めます。

 

                                                以上