動画第7回「日本児童文学者協会賞受賞記念対談 いとうみく×加藤純子」全文起こし2/3 

子どもと読書の委員会

いとうみくさん×加藤純子さんのスペシャル動画、文字起こしの第二回目です。

動画でみたあと、あるいは同時に、プリントアウトした文字をおっていくのがおすすめです!

この文字起こしは、個人でプリントアウトして活用していただく分には大歓迎です!

 

全文起こしは三回にわけてこのブログにアップします。

今回の二回目は12月24日のクリスマスイブに、三回目を25日のクリスマスにアップします。

また、このお話をきいたあと、登場する本を読む・読み直すとまた、新しい発見があるかもしれないですね!

 

●いとうみく×加藤純子(聞き手)

◇登場した本(登場順)

*『真実の口』講談社 2024/4/11

*『夜空にひらく』アリス館 2023/8/4

*『車夫1~3』小峰書店 2015/11/25(1巻)。ほかに文春文庫から1,2巻

*「おねえちゃんって」シリーズ 岩崎書店 2012~

*『朔と新』講談社 2020/2/6。ほかに講談社文庫。

*『かあちゃん取扱説明書』童心社 2013/5/25

*『糸子の体重計』童心社 2012/4/25

 

◇動画作成/ほんまちひろ

 

※本文の無断転載、ご使用はご遠慮ください。

 

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カ:あの、その、わたしが、その、えっと、みくさんのデビュー作からわたしはみくさんにご本送っていただいて、全部拝読してますけれど。

 

イ:ありがとうございます。

 

カ:あの、みくさんの作品のその底辺に流れてるっていうのは、人間を信頼するっていう思いが底辺を流れてるわけですよね。だから、あの、みくさんのご本の中でわたしが一番、こう最初に胸を揺さぶられたのがあの、『車夫』でした。で、その、えっと、なぜかっていうと「ああ、こんなに人間を深く掘り込んで書こうとする作家っていうのが現れたんだ」っていう、その感動から『車夫』。あの、あの男の子がなぜ車夫になって、その車屋のあの、あの人たちも、ものすごい素晴らしい、もうほんとうに泣いちゃうようなね、人たちで、そういう人たちを書けたっていうね。あの、ストーリーじゃなくて人間で読ませるっていう。

あの。それともうひとつは、『夜空にひらく』。それもやっぱりね、ストーリー的にはすごくあの、面白いんですけど。あそこにはひとつひとつ、ものすごい、あの、人間が書かれてる。こういう人間を書く作家が現れたんだなっていうところに、わたしは感動しました。

 

イ:わたし、『車夫』なんかもそうなんですけれども、まずその車夫を書きたいと思ったのは、出だしは、あの、走る少年を書きたかったんですね。

 

カ:あ~~。

 

イ:走る少年っていうのを書きたくて。息子が陸上をやっていて、その時にそんなにこう、すごい選手でも全然ないんですけれども、走ることにこう、ほんとうに全身全霊をかけてこう取り組んでいる。その少年たちを見ていたときに、凄いなって、何がそんなにいいんだろう、走ることって思って。それで走る少年を書きたいと思ったんです。ただ、その時に、スポーツとしての陸上とか走るって事を書いてるのは、名作がすごい山のようにあるじゃないですか。で、そういう中に自分が飛び込んでいってもしょうがないと、これは思って。他にないかな? って考えた時に、多分テレビか何かで、人力車を引いてる車夫を何かでちらっと見てた記憶があったんですね。それで、あ、車夫だって思って。この、生きるため、お金を稼ぐために走る少年、っていうのにしちゃおう。って思ったんです。

で、その次に、でもその、人力車の、車夫なんていうのを、若い高校生ぐらいの十代の男の子がやってるっていうのは、何か事情があるんじゃないかっていうふうに考えていって。わたしの物語の作り方っていうのは、大体こういう感じっていうのがバンとあったときに、なぜそうなったのかっていうので、逆回転させていくんですね。そうしたときに、「あ、この子はお金に困っている」。で、何で困ってるのかというと、「親がいなくなってしまった」。で、その中からあの、この子の背負っているものっていうのが、ある程度形作られてきて。そこからじゃあ、そのそれがきっかけで車夫になっていくみたいな。で、この子がすべてこう、家族とか、そういう学校も退学して、車夫として走ることで生きていくっていう選択をしていく中で、背負った荷物みたいなものを、どうやってこの子は、背負い続けあるいは下ろしていくのかっていうことを、んー、知りたいと思って、少しずつ書いていったっていう。そんな感じの書き方なんです。

 

カ:なんかそれがね、やっぱりすごく今お話うかがってて、全部光景として出てきますよね。だから、あーなるほど、そういうふうに苦しみながら、だけどまた戻って。それで作っていかれたんだなって、あの、思いました。

 

イ:はい。

 

カ:で、やっぱりそこにもあの少年が、親が逃げちゃったっていう喪失っていうのがあるわけですよね。

 

イ:ああ。そうですね。

 

カ:その。その喪失における悲しみっていうのが、ストーリーとずっと、こう、歩いてるわけですよ。で、それを、あの、そこがね、みくさんの作品のすごいところだなって思うのは、湿った感情で書いてない。

 

イ:うんうん。

 

カ:あの、クールに突き放して、でも根っこでは人間を信じて書いている。だから余計リアリティがある。で、それはやっぱりあの、いとうみくっていう作家の、生きる姿勢とつながってるんじゃないかなって、わたしはいつも思っていたんですけど、そのあたりいかがでしょう?

 

イ:えっとですね。あの、その喪失とかやっぱりこう、人間って誰でも、100人、人間いたら100人がそういうものって、欠けてる部分とか重いものを抱えていたりとか、ま、大なり小なりあると思うんですけども、そういうものがあると思っていて、でもそのなんかこう、失ったものとかの痛みとか悲しみだけで生きてないじゃないですか。日常ってそれを抱えながらも、日々淡々と暮らしていく。そこにはその痛みはありながらも、笑うこともあるし、あの、怒ることもあって。そういうことをなんか書きたい。

 

カ:んー。

 

イ:あの、痛みだけを抱えてるわけじゃなくて、その中に……ん、それは、その人の一部であるっていうことなんですよね。だからその辺の、えっと、人を書くときに、痛みだけを一生懸命書くんじゃなくて、痛みを持ちながらも、この人がどんな生き方をしていくのか。そこのその、彼の彼女の持つ喜びだとか、幸福感だとか、支えられてる何かっていうのは何なのかっていうことを、

 

イ書いていくことって、わたしは大事かなっていうふうには思っているんです。

 

カ:だから、あの「おねえちゃんって」シリーズって。

 

イ:はい。

 

カ:あの小っちゃい子向けのありますよね。

 

イ:はい。はい。

 

カ:あれも、根っこはもうステップファミリーっていうね。

 

イ:やっぱり、そうですね。

 

カ:あのお姉ちゃんにとってみたら、もう戸惑っちゃうような、新しい家族がドカンとやってくるわけですよ。ところが自分より巨大な妹が、

 

イ:そうです(笑)。

 

カ:いたっていうね。なんかその面白さであの、すごくこう、人気があるし、面白く楽天的にこう、あの、ステップファミリーとか、その喪失っていうものを楽天的に描いている。それがあのシリーズを成功させている要因なのかなって、あの、思いました。

 

 

カ:今年の夏、花火なんか見てると、夜空にひかる?の中に出てきた…。

 

イ:『夜空にひらく』。

 

カ:ああ、ひらく、ひらく、『夜空にひらく』に出てくる。あの花火師たちの姿は、私、花火師ってあの作品で初めて知って、みくさんが、もの凄い取材して取材して、作られた作品なんだろうなってこともすごくよくわかるんだけれど。

なんかやっぱり、人間、こんなに事情をみんな抱えてる、それぞれが。ただ花火が好きで、村外れで花火を作ってるわけじゃない。生活のために作ってるわけじゃなくて、いろんな事情を抱えながら生きてる。で、その中にちょっとなんかこう、ガス抜き的に出てくるのが、ちゃらい兄弟。

 

イ:双子の。

 

カ:御曹司で、あの弟子にだされてる、ちゃらい兄弟。ああいうこう、息抜きにポン、とする、そういうところもすごいお上手だなって、あの、思ったんですけれど。なんか、ああいうふうにこう書いていく時に、なんか、思いついた細部とか。例えば取材しながら、そういうの、取材相手から出てくる言葉とか、そういう一文でも、文章として、こう残すとか。メモしているタイプですか。

 

イ:えっと、取材のときはやっぱりメモしますけれども。でも私はその取材させてもらったときに、例えば花火のこととかその煙火屋さんっていう、その、工場(こうじょう)、工場(こうば)、そういうところなんかの取材っていうのは、もうなるべく細かくさせて頂きたいと思って。例えば、その職人さんたちが使う用語であったりとか、なかなかこう、資料には載ってないようなリアルな言葉を知りたいと思ってるんですけど、本当にこう、素人の質問ですみませんとか言いながら聞くんですけれども。人にはなるべくフューチャーしないようにしていていうのはあります。

取材をしていると、やっぱり取材相手の魅力ってすごく感じることがあるんですね。この人すごいなとかこんなに想いがあるんだとかっていうと、ついついそっちに流されてしまって、人物がぶれちゃうんです。

 

カ:あー、なるほどね。

 

イ:だから私は、取材は割と距離感をもって、あんまり人物に入り込まないように、入り込まないようにっていう、そういう取材をします。

 

カ:プロだ。

あの。いや。なんか本当に、なんかね、あの、なんて言うのかな。みくさんの作品って、多様な人間像、が、くるわけですよ。例えば、バスに乗ってて事故にあっちゃって、失明しちゃったお兄ちゃんと、その自分はそのバスに遅れちゃったもんだから、そのバスに乗ったことによって、自分が遅れちゃったからって、弟がね、お兄さんに対して、苦悩しながら…。さくとあきら?

 

イ:『朔と新(さくとあき)』です。

 

カ:なんかやっぱりそういうのも、出てくるし。ただあの、何て言うのかな。想像力とかアイディアだけで物語をつくってるって感じが私はしなくて、なんていうのかな、やっぱり人間を書くとき、いつも、覚悟みたいなものって、あります? この人、ちゃんと物語で背負っていくぞ、って。

 

イ:それはあります。あのう。えっと。例えば。うんっと、本が出来あがって読者に手渡しますよね。その時に読み方ってすごくそれぞれの読み方があって、ある人はこれを読んで勇気づけられましたって人もいれば、ある人はすごくこれを読んで不快だったって人もいるかもしれないじゃないですか。私としてもなるべくこう、そういう風には、誰かを不快にしないようなものにしたいと思っていても、どうとらえられるか分かんないですよね。だから読者に対して私は責任が持てないって、正直言って思っていて。あの、申し訳ないですけれども。

ただ、私が書く登場人物に関しては、私は、彼ら、彼女らの、人生を、責任を持って書きたい。この人たちを絶対にこう、諦めるような生き方にしないところまで、引き上げよう。それだけは思って、こう、書いてます。

 

カ:すごくこう、人間を書くっていうところでね。あの、みくさんの、人間を捉える姿勢、姿勢っていうのがすごく今までのお話でよく伝わってきて。ああ、真似できないなあと。歳だからなあ、とかね、そう思って、思いながら、あの、伺わせていただいたんですけれど。あの、えっと、始まる前にもちょっと言ったんですけどね。やっぱりあの、喪失って、みくさんの作品に、なんか、一番最初のね、『かあちゃん取扱説明書』とか、『いとこの体重計』あのへんのあたりって、『かあちゃん取扱説明書』なんて、もうすごいベストセラーで、本屋さんどこ行ってもいつも平積みになって、えー、いつまで平積みになってるの?っていうぐらい、売れてる本を持ってるっていうのは、すごい作家として安心感っていうか、疲弊してもこれでお金が入ってくるしみたいな。

なんかそういうのっていうのは、あの作家って心のどこかにはあると思うんですけれども。あの、その、人間っていう所じゃなくて、あの心にこう、読後、漣を起こされるようなトゲ、物語のトゲ。それを私は、あの喪失っていう言葉で言い換えて、申し上げたんですけれど、みくさんの場合、そのいつも根っこに、そのどういうこと、私は喪失とか物語のトゲとか勝手に言ってますよ。だけど、みくさんはどういうことを根っこに置きながら、いつももちろん人間を書くってのは当たり前のことだけど、置いて書いてますか?

 

イ:そうですね。あの、よく人間を描くっていうのは、季節風とかでも言われるし、児文協の創作教室とか、多分いろんなところで、人を描く、人間を描くっていうことって言われて。で、この前、季節風とかでも、じゃあ人間を描くってどういうことなんだって話はすることが時々あるんですけど、それってやっぱりそれぞれで考えなきゃいけない、答えがひとつあるわけではないと思うんですね。

私が今、その加藤さんにきいて頂いたようなことを含めて言うと、トゲっていうか、私は人を描こうと思って書いているときに、何を意識するのかっていうと、他人から見た自分とか、自分から見た自分ていうものとか、そういうものと、もっと自分が、見えてない自分、あるいは、見たくない自分みたいなものっていうのに、いかに掘り下げていけるか、その主人公、それ見たくないんですよ、多分。自分の知らない自分っていうのは、割と見たくない、とか、やっぱ負の部分とか弱さがあったりとかするんですけれども、そういうところを、どうやって、向き合っていけるのか。

なんかこう、人を描くっていうのは、こう、その人物が自分と、どう向き合っていくのかみたいな、そこの描き方なのかなっていう感じは、ひとつはあって。だからその、簡単に言っちゃうと、人って多面的とか重層的であると、その重層的な部分を、いかに掘り出していけるか、掘り起こしていくことができるのか、っていうことなのかなっていう気はして。なかなかできないですけど。

 

カ:ああ、いやでもね、人間ってあの、なかなか自分を客観的に見るって、私ぐらい生きてても、ああ、あの人、客観的に私を、どう見てるのかしら、なんていうのもわかんなくて。パーパーパーパー生きてるから。なかなかね、やっぱりそこまで物語の中で深めていくっていうのはすごい大変なことなんだけど。そこまでやっていかないと、やっぱり、みくさんのような作品って書けないんだなってことが、よくわかりました。

イ:いえいえ、私も、できてないんですよ