動画第7回「日本児童文学者協会賞受賞記念対談 いとうみく×加藤純子」全文起こし1/3 

子どもと読書の委員会

みなさまこんにちは。おでんプロジェクト動画・作家がきいてみたシリーズ。

今回は子どもと読書の委員会のおひとりである、いとうみくさんが日本児童文学者協会賞を受賞なさった記念に、お祝い動画を作りたいね! というところからはじまった企画です。

「おまけでいいよ」とご本人様がおっしゃってくださっていましたが、とんでもない! ふたをあけたら、いま、わたしたち書き手のほしいものが、ぎっしり詰まっていました!

全文起こしを三回にわたってブログにアップしていきます。

ちょうどクリスマスシーズン。まるでいとうさん、加藤さんからのプレゼントみたい✨と勝手にしめのが思ったので、せっかくだから、クリスマスに合わせて文字起こしをアップしようと思いました^^

 

●いとうみく×加藤純子(聞き手)

◇登場した本(登場順)

*『真実の口』講談社 2024/4/11

*『夜空にひらく』アリス館 2023/8/4

*『車夫1~3』小峰書店 2015/11/25(1巻)。ほかに文春文庫から1,2巻

*「おねえちゃんって」シリーズ 岩崎書店 2012~

*『朔と新』講談社 2020/2/6。ほかに講談社文庫。

*『かあちゃん取扱説明書』童心社 2013/5/25

*『糸子の体重計』童心社 2012/4/25

 

◇動画作成/ほんまちひろ

 

※本文の無断転載、ご使用はご遠慮ください。

 

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【はじめに】

しめのゆき:みなさま、こんにちは。日本児童文学者協会、子どもと読書の委員会です。おでんプロジェクト動画「作家が作家にきいてみた」。第7回目は特別企画。2025年5月に、第65回日本児童文学者協会賞を受賞なさった、いとうみくさんのスペシャルインタビューです。いとうみくさん、このたびはほんとうにおめでとうございます。

改めまして、こちらの本のご紹介を致します。

『真実の口』いとうみく著 講談社より2024年4月に発行されました。

袖に書かれた言葉が、読む前も読んだ後もミシリと心に響きます。

 

『――下手に正義感なんて振りかざして、

もし間違ってましたなんてことになってごらんよ、

どう責任とるの?

あのとき、ありすを交番へ連れていったとき、

おれたちはいいことをしているつもりだった。

正しいことをして、人助けをしたのだと思っていた。

そのうえ感謝状なんてものまでもらって、

内心、得意になっていた。――本文より』

 

とはいえですね、今回はお二方には自由に、楽しくおしゃべりを楽しんでいただければいいなというふうに思っております。

きいてくださるのは、児童文学作家の加藤純子さんです。それではいとうさん、加藤さん、よろしくお願いいたします。

 

【対談】

加藤純子(以下カ):インタビュアーの加藤純子です。みくさん、『真実の口』での日本児童文学者協会賞、おめでとうございます。

 

いとうみく(以下イ):どうもありがとうございます。

 

カ:児童文学の賞という賞を、もうほとんど総なめ……受賞されている、あの、いとうみくという作家の存在は、現在あの、作家である方、あるいはまだ作家未満で、長いこと作家を目指して頑張っていらっしゃる方、あの、皆さんの憧れの存在かもしれません。

今夜はそんないとうみくさんの創作方法について、またあの、作品における人間の捉え方とか、なぜ児童文学を書こうと思ったのかとか、なんかそういうことをちょっと突っ込んでお話をうかがいたいと思っております。

それでは、はじめの質問です。

 

イ:はい。

カ:えっと、なぜ児童文学でしたか。そして一緒にね、作家になるために必要なことって、どんなことだと思いますか?

 

イ:はい。えっと、えっと、なぜ児童文学だったのか、っていうのは、長いバージョンがいいですか? 短いバージョンがいいですか?(笑)

 

カ:ん~まだいっぱい続くから。

イ:ん、短いバージョン?

カ:はい。

 

イ:じゃあ、えっとですね。もともと書くことはすごい好きだったんですけれど、児童文学、子ども向けの本ということで、作品ということで、一番最初に書いたのは、きっかけになったのは、息子にこう、読み聞かせをしてたんですね。小っちゃい時から、ほんとうに保育園にずっと行っていたので、なかなか母と子の時間っていうのが取れなかったので、それで毎晩、読み聞かせをするようになったんです。

それで読んでたら、皆さんも多分ご経験あるんじゃないかと思うんですけど、絵本とかって、文章短いし、優しい言葉だし、書けるんじゃない? って思うことなかったですか? わたしなんか、そういう勘違いをまずして。書けるかも、と思って書いて。息子に向けて書いたんですね。それを書いたものを、息子に読んであげた。そしたらすごい「面白い、面白い」って言ってくれて。で、「えー」と思って。そんなに喜んでくれるんだったら、もっと書こうと思って。で、また書いて。

で、そういう繰り返しから、だからもうほんとうに、こういう、やさしい物語なら書けるんじゃないかっていう、そのまず勘違いをしたっていうところから始まったっていう感じなんです。なので、子ども、息子に聞かせたいと思ってるところからまず、児童文学っていう感じではありました。

 

カ:で、あの作家になろうと思って書き始めて、どれぐらいでデビューしましたか。

 

イ:えっとほんとうにだから、んと息子が一歳とか二歳ぐらいの時から多分書き始めたと思うんです。それでデビューしたのは、息子が高校生の時だったので。

 

カ:ああ。

 

イ:14,5年、書いてたんじゃないかなと思うんです。前半のほうは、持ち込みとかをやってたんですね。持ち込みやってたけど、やっぱりもう全然ただたんにボツで。何がダメなのかっていうのが、全然自分で分かんなくて。それでもその、勘違いをしているので、何がダメだったんだろう? って言うかその、あの、わたしの作風とその出版社の作風が合わないだけなんじゃない?

 

イ:みたいな感じで。よっしゃ次とかって言って、違うところにまた連絡をして読んでもらったみたいな感じだったんですね。全然知り合いもいなかったので。

それでも全然全部ボツだから、どうしたらいいだろうと思った時に、ああ、同人誌っていうのがあるんだな、と思って。で、入ってみようと思って。それでそのネットで調べて、「季節風」っていうとこがヒットしてきて。それであの、どうにか入れてもらわなきゃいけないっていうので、熱い思いを書いたメールを出して、入れてもらって。で、あとで聞いたら季節風は誰でも入れるんだよって。

カ:笑。

 

イ:会費さえ払えば誰でも入れるって言われて、すごくあの恥ずかしい思いをした。すごい熱いね、熱意だけなら負けませんみたいな、どうにかこうにかして入れてもらわなきゃ、と思ってたので、そんなメールを送って。それで入れてもらって。

 

カ:ああ。

イ:はい。

 

カ:いや、なんかわたし、その15年ぐらい前の、少女みたいなみくさんの写真持ってて、よく存じ上げてますけど。

イ:はい。

 

カ:やっぱりその頃から根っこはやっぱり、凛とした、ドンとした、なんかあの、何て言ったらいいんだろう。すごいこう、あの、肝っ玉女性だったんだなっていうことが今、分かりました。

イ:はい。

 

カ:あの頃は、んまあちょっと、ポンと押すと、よろよろっとなっちゃうような、ひ弱な人かな、とか思ったけど、そうじゃなかったんですね。

イ:あのね、基本的になんか、ハッタリで生きてきたみたいな感じがあって。

カ:あ~。

 

イ:わたし、ずっとフリーでライターをやってたので、例えば仕事の依頼とかされた時も、あの、フリーだから断ったりなんかしたら、次、仕事こなくなっちゃうから、なんか全然やったこと、ファッションとか全然得意じゃないのに、「それ得意です」とかって受けちゃうようなタイプ。

 

カ:なるほどね。

イ:はい。

カ:でもやっぱり、だから生きる力っていうのを、すごい持ってる人だなって思います。

イ:それは(笑)。図々しさと。

 

カ:いやいや、でね、あのみくさん、本を、わたしたち読書会もやってるけれど、たくさん読んでらっしゃると思うんですよね。で、その作品を書きながら、ただ読者として本を読むだけではなく、その本から何かヒントをもらうとか、そういうことってありますか?

 

イ:そうですね。具体的に例えば、何て言うんだろな。あの、この本を読んで、こういう人を書きたい、とかってことはないんですけれども。ただ、何て言うんだろうな、色んな書き方があるんだなとか。やっぱり読んでる時も、書き手としての視点が絶対入ってくるので、ああ、場面展開をこういうふうにしてるんだ、とか。あの、そういう、何て言うのかな、地の文のつなげ方だとか、無意識にそういうところを気にして読んじゃうから。だから結構読むのは遅いかなとは思うんですけど。はい。

 

カ:あの、やっぱり本を読むってこと、すごく大事だと思うんですけど、今みくさんがおっしゃったその、読み方っていうか、それをものを書く人間っていうのは、意識して読んでいかないといけないなって、わたしも思いました。

それから、あの、「運」。あのこれすごい大きいってわたしは思うんですよ。わたしみたいな大した才能もない作家が、45年もやってこれてるっていうのも、運かなって、ひたすら。運だったかなって今思うので。みくさんはそのあの、運の引き寄せ方みたいな、そういうのあります?

 

イ:あ……りますね。あの運って、例えばその、大きな賞を取って、新人賞取って、デビューするってのは、もちろんそれはすごい運も実力もあると思うんですけど。わたしの場合の運のつかみ方っていうのは、やっぱり勘違いをし続けるっていうことだと思っていて。鈍感力っていうか。だからここですぐダメだとかって言われて諦めない。

カ:んー。

 

イ:何クソみたいな感じで、やっぱり続けていく。だからもうなんか何て言うのかな。ほんとうにこう、デビューする前とか直後とかもそうだったかもしれないんですけど、今思うと、何をほんとうにうぬぼれているというか、勘違いをしてるんだっていうところがいっぱいあったと思うんです。なんでこれが、わたしの作品なんでダメなんだろうっていうのとかがすごくあったんですけど、でも、あ、それは人に言わないですよ。わたしの心の中で思ってただけで。

カ:うんうん。

 

イ:あの、そこで多分、何がダメなんですか? とか、あの、っと、人にくようなことではわたしはダメだと思っていて。自分で、なんでダメなんだろう? ってことを問い続けるっていうか。で、諦めないでやっていく。そうすると必ずそういうのには、運は向いてくる。誰かが見ててくれるなって思うんですよね。

 

カ:勉強になります。

イ:笑。

カ:これから勉強してももうだめですけれど(笑)、あの聞いてらっしゃる方、勉強になると思います。

イ:笑。

 

カ:それとね、あのう、すごく感心してるのが、書き手としての観察眼、それから取材力。それは今のあの、何ていうのかな、自分の視点とか、自分が考える基軸を大事にする。常にこう、自分をこうちゃんと大事にしながら、他者を大事にするっていうね。そこのところがこう、あるのかなって思うんですけれど。あのほんとうに、なんか、堂々としてて、凛としてて、揺らぎがない。お祝い会の時だって、わたしが「わー」って泣いても、全然平気でつられて泣きもしないで、うわ、すごい! ってあの時も思ったけど。なんかその、だけれど、そういうふうに、こう、自分をこう何ていうのか、自分の基軸っていうのを、きちっと立たせて生きていらっしゃるけれど、でもこう内面的なところで、こう、揺らいだり傷ついたりっていうことって、あるんじゃないかなって、人間だから。

イ:ありますよ、そりゃ(笑)。

 

カ:どういうふうに、こう、折り合いをつけながら生きてるのか。その辺をちょっとうかがわせてください。

イ:わたしはもともとすごい、コンプレックスの塊みたいな人間で。

カ:えー!

イ:自信とか全然なくて。だからハッタリで生きてるんですけど。

カ:えー!

 

イ:そう。だから、人に言われたちょっとしたこととかでも、すごい気になっちゃって。すごい気にしいなんです。ほんとうは。

カ:そうなんだ!

 

イ:そう。だけど、それをそんな気にしてたくない、そういう自分が嫌だって思うところもあって。意識してないフリはするんですけど。根っこはそういうすごくこう、センシティブなところがあるっていうか。そういうところもあって。だからこそ、その何ていうのかな、やっぱり、こう、そういう凛とした人間への憧れ? みたいなものとか。そういうものがこう、自分の理想的なものっていうのは、作品の中のどこかには、必ず入ってはいるなって思うんですよね。

 

カ:ああ、わかります、わかります。やっぱりその、何て言うのかな。人間が持ってる悲しみみたいなものも、くっきりと描けているし。そこのところ、あの、再生していく時に、みくさんって、返し縫い、こう、そういうふうにしながら、再生させていく。簡単にパッと再生させない。それはやっぱりご自分の中にも弱さがあって、そこのところが、折り合いをつけるために、返し縫いが必要なんだなってことが、今お話しうかがってて、よくわかりました。

 

イ:返し縫いって言葉がなんか、わたしは、あ! なるほどって思って。なんか以前、加藤さんにそれを言っていただいた、その、「返し縫いをしながら再生させていく」っていうのを聞いた時に、わたしとか全然そんな意識してなかったから、「わ! すごい嬉しい!」って思って、あ、なるほど! って。なんかわたしの方が納得しちゃったんですけど。

 

カ:なんかすみません。なんかわたしが講演してるみたいな感じでね(笑)。

イ:いえいえ。

カ:主役を、なんかあれして、すみません(笑)。

イ:とんでもないです。

 

カ:で、あの、例えばね、原稿依頼とかも、これだけ売れっ子になると、どんどんどんどんくると思うんですよ。で、いついつぐらいまでに書いてくれとかっていう時に、書くことが思いつかないとかって、そういうことで苦悩することってあります?

 

イ:あの、例えば、何かネタ帳とか持っていて、作っていて、日頃こう、気になったこととか、こういうテーマで書きたいなとか、そういうことってのはつけとくんですけれども、実際書くとなると、そういうテーマはどうでも半分良かったりするんですよね。で、そのいざ書こうと思っても、思い浮かばないってことは、わたしもすごいいっぱい、特に五年ぐらい? あの、ストックがなくなってきた感じの時に。完全にここから、ゼロからゼロスタートで、もうどんどん生み出していかなきゃいけないってなった時に、あの、何を書こう? っていうふうになったりってことは、いっぱいあるんです。

ただ、その時にいつも思ってるのが、何を書こうと思って書いちゃうと、つまんないものになっちゃって。で、だからわたしがいつも心がけて、毎回失敗するんですけど、何を書こうじゃなくて、誰を書こうなんだって思い直して、どんな子をわたしは書きたい、どんな子を知りたいと思って作品に取り組むのかっていうことに、もう1回こう、自分でリセットして考えて、それにこうテーマを重ね合わせていくというか、そういう形で書いています。いつも悩んでます、それは。