181、大石真さんと那須正幹さん、再読のすゝめ (2025,10,26)

理事長ブログ

【大石さんの講演会】

・昨日は、一日出ていたので、ブログ更新が今日になりました。昨日の用事は、前に書いた埼玉県和光市図書館での大石真さんについての講演でした。そこにも書きましたが、「大石真生誕100年」ということで、大石さんの出身地の和光市で、今年の図書館祭りの一環として企画されたものです。

地元のグループによる朗読というプログラムもあり、講演はやや短めの一時間でした。僕が講演につけたタイトルが「大石真の軌跡を追って~「童話」から「児童文学」へ~」というのですが、大正と昭和の狭間の時期に生まれた大石さんは、児童文学の歴史の中の、童話の時代から児童文学の時代への転換を、ちょうと一身に背負ったような書き手だというようなことを話しました。

作品としては、前回書いた『教室二〇五号』(1969年)と、もう一つ『魔女のいる教室』(1980年)を主に取り上げました。大石真と言えば『チョコレート戦争』が一番ポプュラーかと思いますが、僕は『教室二〇五号』が大石さん“前期”の代表作(というか集大成)で、『魔女のいる教室』が“後期”の代表作だと思います。今回、改めて読んで、この二つの作品が少しも古びていないと感じました。

・講演が終わった後、主催者の方から紹介されたのは、大石さんのご次男の夏也さんでした。僕は大石さんのご葬儀の際にご家族は“見て”はいるわけですが、なにしろ三十数年前のことですから、ほぼ初対面です。大石さんは中背でほっそりした方でしたが、夏也さんは大柄ながっしりした体形の方で、後で思い出したのですが、大石さんが1974年に出された『てんぐ先生は一年生』は、年譜で「次男夏也と共著」と書かれています。そのことをお聞きすれば良かったと、後から思ったことでした。

【那須さんの『屋根裏の遠い旅』が復刊されます】

・これはブログに書いたことがあったかどうか、僕が那須正幹という書き手と出会ったのは、「ズッコケ」シリーズではなく(僕が学生時代、児童文学を読み始めた時は、「ズッコケ」はまだ出ていなかったし)、『屋根裏の遠い旅』でした。「日本が太平洋戦争に勝利した」世界に、“こちら側”の6年生の少年二人が迷い込む、という設定が、僕自身の生い立ち(父は海軍の職業軍人で、戦後は公職追放で苦労したわけで、「あの戦争に勝っていれば」は、僕の家族のテーマでした)と重なり、ひどく心に刺さってきたのです。この作品は、もともとは、那須さんがお姉さんの竹田まゆみさんと二人で作った『きょうだい』という同人誌に連載したもので、それが1975年に偕成社から出版されました。デビュー作の『首なし地ぞうの宝』(1972年)に続く作品で、那須正幹初期の代表作と言えるでしよう。

これが1999年に偕成社文庫になった時に、僕は解説を書かせてもらったのですが、上記のように、この作品には思い入れがあり、解説は12ページにわたっていて、多分僕が書いた本の解説の中でも一番長いものだと思います。

・この作品が、今度中公文庫になるということで、編集部から、解説の再録と追加を依頼されました。もとよりうれしいことで、もちろん引き受けました。そこにも書いたのですが、1975年に出版された作品がほぼ四半世紀後の99年に文庫化され、さらにそこからまたほぼ四半世紀後の今年、大人向けの文庫となって甦る(つまり、最初に本が出てからちょうど今年が50年なのです)というのは、時間をテーマにしたこの作品にぴったりの展開だと思ったのです。

この作品で、「日本が太平洋戦争に勝利した」パラレルワールドに迷い込んだ二人の少年は、やがて疑問を持ち始めます。自分たちが元々いた世界は、もちろん日本が太平洋戦争に敗北し、「二度と戦争はしない」「軍隊は持たない」と誓った国のはずです。しかし、その元の日本だって、自衛隊という名の軍隊があり、基地もあったではないか……、だとすれば、今いる世界とどう違うのだろう……と。50年前に、こうした形で「戦後日本」の虚偽を告発した那須正幹という作家の先駆性には、今更ながら驚かされます。

12月には出版されるということなので、まだお読みでない方は、この機会にぜひ手に取ってください。