「公開研」11/29のための プレ読書会第4回報告
11月29日(土)に開催される公開研究会に向けて、さる10月17日(金)18時30分~20時30分、Zoomミーティングによる第4回「プレ読書会」を行いました。参加者は研究部員を含め13名でした。
プレ読書会最後となる今回は、英語圏文学翻訳者の原田勝氏の戦争に関連する翻訳作品を取り上げ、海外の作品を翻訳で読む意義を考えるものでした。原田さんご自身にもご参加いただき、オンラインながら、少人数のこのような機会ならではの、踏み込んだお話をすることができました。
当日は、研究部が作成した作品の概略を見ながら、順番に個々の作品について、参加者から自由にご発言いただきました。
取り上げた作品は、国内での出版順に、以下になります。
『弟の戦争』ロバート・ウェストール作、徳間書店、1995.11
(原著:Robert Westall. Gulf, 1992)
『ぼくの心の闇の声』ロバート・コーミア作、徳間書店、1997.2
(原著Robert Cormier. Tunes for Bears to Dance, 1992)
『二つの旅の終わりに』、エイダン・チェンバーズ作、徳間書店、2003.9
(原著:Aidan Chambers. Postcards from No Man’s Land. 1999)
『銃声のやんだ朝に』、ジェイムズ・リオーダン作、徳間書店、2006.11
(原著:James Riordan. When the Guns Fall Silent. 2000)
『わたしの知らない母』、ハリエット・スコット・チェスマン著、白水社、2006.8
(原著:Harriet Scott Chessman. Someone Not Really Her Mother, 2004)*一般書*
『フェリックスとゼルダ』、モーリス・グライツマン著、あすなろ書房、2012.7
(原著:Morris Gleizman, Once. 2005)
『フェリックスとゼルダ その後』モーリス・グライツマン著、あすなろ書房、 2013.8
(原著:Morris Gleizman, Then. 2008)
『ブライアーヒルの秘密の馬』(共訳者:澤田亜沙美)
メガン・シェパード著、リーヴァイ・ピンフォールド絵、小峰書店、2019
(原著:Megen Shepherd. The Secret Horses of Briar Hill. 2016. Illustrated by Levi Pinford)
『ヒトラーと暮らした少年』、ジョン・ボイン‖著、あすなろ書房、2018.2
(原著:John Boyne, The Boy at the Top of the Mountain, 2015)
『キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン』
マーク・アロンソン、マリナ・ブドーズ著、あすなろ書房、2019.9
(原著:Marc Aronson & Marina Budhos, Eyes of the World: the Invention of Modern Photojournalism. 2017)
『チャンス はてしない戦争をのがれて』ユリ・シュルヴィッツ著、小学館、2022.9
(Uri Shulevitz, Chane: Escape from the Holocaust, 2020)
『ウクライナ わたしのことも思いだして 戦地からの証言』
ジョージ・バトラー/文と絵、小学館、2025.1
(原著:George Butler, Ukraine: Remember Also Me: Testimonies from the War, 2024)
『シリアの秘密の図書館』
ワファー・タルノーフスカ作、ヴァリ・ミンツィ絵、
青山弘之(アラビア語・巻末解説監修) くもん出版 2025.5
(原著:Wafa’ Tarnowska/text, Vali Mintzi/illustration, Nour’s Secret Library, 2022)
英語圏では、「戦争」を扱う児童文学というと、まず第一次世界大戦を描いた作品が多いこと、第二次世界大戦後を「戦後」と考える意識は希薄であるということは、日本で児童文学を考える際には忘れられがちな観点かもしれません。原田さんが翻訳された作品には、第二次世界大戦にかけてのユダヤ人迫害のような現代の世界情勢につながる問題の他、翻訳された当時は国内の児童文学作品ではあまり描かれていなかった性的マイノリティや安楽死など、海外作品だからこそ読むことができるテーマを扱ったものがあります。このような作品を、積極的に紹介しようとする出版社とそれを実現できる翻訳者の力があってこそ、日本の読者にこれだけの作品を届けることができたのだということが、あらためて理解できました。
一方、英語圏の作品で取り上げられている戦争は、世界大戦だけでなく、湾岸戦争やベトナム戦争、イラン・イラク戦争など多岐にわたりますが、日本の読者には馴染みの薄さからか、あまり紹介されていない、という現実もあるようでした。また、現代に近いものとは異なり、第一次世界大戦や第二次世界大戦を扱うには現代の若い読者を惹きつけるためのしかけが必要となっている、という原田さんの指摘は、日本の児童文学にも当てはまるでしょう。
最近のお仕事には、10年ほど前のシリアの内戦時代の出来事を扱った作品や、現に進行中のロシアによるウクライナ侵攻下の人々の暮らしのルポルタージュなどがあります。私たちが実は、「戦後80年」という言葉が通用しない世界を生きていることを改めて考える機会となりました。(戸田山みどり)
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2025公開研究会 戦後80年、”伝える”を考える ~<記憶>の継承と児童文学の力~ 11/29開催 – 日本児童文学者協会
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