ある日突然、空から降ってきたわけではない戦争 小手鞠るい
私の母の戦争体験を基にして書いた『美しくない青春』(さ・え・ら書房)が
刊行されました。刊行直後から、さまざまな方々がご感想をお寄せくださり、
あらためて、このテーマで作品を書いていくことの重要性を再確認しています。
「戦争と詩人」というテーマでご依頼をいただいたとき、まっさきに頭に浮かんで
きたのは、敬愛する詩人・茨木のり子さんの詩と、満州事変勃発時に生まれ、15歳で
敗戦を体験した母の青春時代でした。これを私が書かないでどうする、と思いました。
日本の児童文学者が太平洋戦争を取り上げて作品を書こうとするとき、忘れてはならない
基本中の基本である視点は「日本は侵略・支配戦争の加害国であった」という史実では
ないかと、私は思っています。幼い娘であった私に、母が語った「みんな、あの人のために
無駄に死んでいったんじゃ」という言葉。これを忘れてはならない、とも思っています。
もちろんこれは私個人の考え方なので、異論もあるかもしれませんが、とりあえず。
そして、つい先ごろ『美しくない青春』に、版元の担当編集者を通して、以下のような
ご感想をいただきました。自著を褒めていただいているわけなので、非常に手前味噌で
あると、わかってはいるのですが、彼女のお言葉を、私はみなさまと共有したいと思います。
私の作品への賛辞ではなく、 元公共図書館司書・大学非常勤講師(ご担当は主に児童サービス論)で、ほぼ私と同世代の方からの貴重なご意見として、ぜひご一読ください。
以下、お送りいただいた文面をそのまま貼り付けます。
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まず、物語の中に、太平洋戦争に至り敗戦を迎えるまでが、克明に、終始、こんなに愚かなことだったのだ、という視点から書かれているのは素晴らしいと思いました。
129ページの『神様やったら返せるはずや』というミモザの心の叫びには胸が詰まります。
清水眞砂子先生は、『日本の児童文学は、戦争がまるで自然災害のように描かれている』とおっしゃいます。ある日突然、空から降ってきた、とでも言うような。全く同感です。
この本の読者層(ヤングアダルトでしょうか)にはやや難しいかもしれませんが、ごまかしたり柔らかい表現にすることなく、社会の変化や激戦地の地名、犠牲者数まで表記されたこと、「無茶で無謀な戦争」とはっきり言っていること、拍手をしたい思いです。
私の知る限り、ではありますが、日本の児童文学で、あのように史実を詳しく正確に追って、よい意味でドライに織り込んだ作品はなかったのではと思います。
常々、戦争の悲惨さだけを浮き立たせてどうする!加害責任に触れなくてどうする!
等々、思うところがありますので、ようやくこんな作品が出た!とうれしくなりました。
しかも、若い女性の視点で細やかに書かれていることは、注目すべきと思いました。
だいたい、こんなひどいことがあったのよ、こわいね、かわいそうだね、だから戦争はいけないね、という甘い書き方のなんと多いこと。
それを蹴飛ばしてくださいました!
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