動画第三回目「作家が作家に…松本聰美×いとうみく」全文起こし2/3 ふたつめの質問

子どもと読書の委員会

子どもと読書の委員会制作「作家が作家にきいてみた おでんの具はなにがいいですか?」動画の第三回目、松本聰美さん×いとうみくさん(聞き手)の回の文字起こし、二回目です。

今回の見どころは、松本さんがどうやって物語を作っているのか、という創作の発想を語ってくださっている点です。作家をめざす方も、作家の方も、ぜひ聞きたいところ!

いとうさんと楽しくおしゃべりしているうちに、本音がこぼれていって……ぜひ、ご視聴くださいね。

●松本聰美×いとうみく(聞き手)

●『金色の約束』黒須高嶺・絵 国土社)

●引用/『オセロー』(ウィリアム・シェイクスピア 著 小田島 雄志 訳 白水社)

※無断転載やご使用はご遠慮ください。

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2つめの質問

 

イ:それでは、2つ目の質問なんですけれども、今ちょっとお話しいただいたように、あの、少年たちのね、これは冒険というか、宝探しというか、そういった物語でもあると同時にですね、

彼ら2人の葛藤であるとか、友情とか、まあ成長の物語でもあるな、ていうふうに思うんですね。抱えているものがそれぞれ2人にあるじゃないですか。私はこれ読んだときに、

あの、松本さんはどっちが先に頭にあって。どっちを書きたくて、書かれたのかな? っていうのにすごく興味があったんですけれども。砂金取りなのか、少年たちの色々な思いなのか、どっちからだったんでしょうか。

 

マ:えっと。正直に言いますと、何から始まったかっていうと、一つの場面からなんです。

 

イ:えー。

 

マ:私、時々頭の中にある場面が、パッと思い浮かぶんですね。映画の1シーンのように。で、それが何回も何回も出てきて、結構それを自分の中で反芻するんです。こう、夜寝てる時とか、その場面の続きを考えたりとか、裏設定を考えたりとかして。寝るまで、目閉じて遊ぶんですけどね。同人誌仲間で「カバンについて作品を書こう」っていう提案があったんです。

 

イ:カバンですか?

 

マ:カバン。

 

イ:カバン、はい。

 

マ:そのときに私、その頭の中にあった一つの場面がパッと頭に浮かんで。で、そこから書き始めて。その場面っていうのが、この冒頭の場面。お母さんが黒い大きいカバンを、アパートの階段を、持って上がってきて、

アパートのドア、戸を開けると、5年生ぐらいの男の子が、机に向かってるっていう、その場面があるんですね。で、そのお母さんが働いてるところとか、そういうのも頭の中でこう寝ながら、ちょっとずつちょっとずつ裏設定を作っていってたんですけど。

それがあって、それから書き始めたんです。

 

イ:へええ。あ、ほんとあの、イラストもね、あの、描いてくださってますもんね、そのシーン。

 

マ:ええ、ええ。

 

イ:カバンをね、お母さん。

 

マ:そうです。

 

イ:うん、あの、これだなと思って今見てたんですけど。そこから物語を膨らませていくわけなんですか?

 

マ:それで、それに自分の心の中にある、いろんなこう、自分の心の深いところにパーツがあるんですね。で、そのストーリーに沿って、そのパーツがひょっこひょっこ乗っかっていくんですよ。それで、その、今回その、乗っかっていったひとつが嫉妬なんです。

 

イ:ああ、うん。

 

マ:それで、その嫉妬っていうのは、皆さんもよくご存知かと思うんですが、シェイクスピアの『オセロー』の中に、イアーゴーがオセローに向かっていう言葉があるんですね。

小田島雄志さんの訳なんですけど。『お気をつけなさい、将軍、嫉妬というやつに。こいつは緑色の目をした怪物で、人の心を餌食とし、それをもてあそぶのです。』っていうセリフがあって、私、それに触れたとき、もう怖さで震えたんですね。

(※『オセロー』ウィリアム・シェイクスピア 著/小田島 雄志 訳/白水社)

うわ! なんて嫉妬って怖いんだろうと思って。で、それは、その体験は昔むかしのことなんですが、児童に向けてのお話を書くようになってから、この嫉妬というのをいつか子どもの本で書いてみたいなと思うようになって。

で。あの、嫉妬ってちっちゃーい子にもありますよね。

弟が生まれたときとか、妹が生まれた時とかとか。

それから幼稚園生にも小学生にも中学生にも、高校生、私たちも嫉妬ってありますよね。

その嫉妬を児童文学で書くんだったら、それをどういうふうに乗り越えていくか、その過程と、そしてそれを乗り越えた後の気持ちを書かないといけないなって思ってたんですね。

で、その場面のストーリーに、ずっとこう寝ながら、こう頭の中でごちゃごちゃ思ってたストーリーに、それをポンと乗せたんです。それで、このお話を作っていったんですけどね。

で、このストーリーにひょいと乗せた私の心の中の風景がもうひとつあるんです。それは、山の場面なんですけど。まあ、舞台なんですけどね。私、茨城県のある街を舞台にして書きたいとずーっと思ってたんです。

 

イ:へええ。

 

マ:それで、あそこを書こうって。すぐ山が後ろに迫ってる街で。

 

イ:うんうん。

 

マ:その街は、ちょうど、昔、炭鉱があったんです。で、砂金っていうのは炭鉱がある、川の……川のそばに炭鉱があるっていうのが、まあ、条件みたいなんですね。で、あっ、あそこで書けると思って、そこを思い描きながら、その自分のこう、願いっていうか、それをまたそのストーリーにぴょんと乗せちゃったんです。

 

イ:面白いですね。いろんな書き方がね、みんなそれぞれ違うから、すごい新鮮です。

 

マ:それでね、読んでくださった方が、「ひょっとして、あ! これはあの街だ」って気づいてくれたらいいなと思って、そのヒントをひとつ、入れ込んだんです。

 

イ:ええ、そうなんですか!

 

マ:そうなんです。それがこの作品の中で、あまり気には止められないだろう、5億年前の石っていうのが出てくるんですけど。

 

イ:あ! あの途中であの子達と出会った時に、あの子たちと…。

 

マ:そうです。で、その街には5億年前の石があるんですけど、あんまり知られてないんですね。

でも、大学の先生がきちんとそのことを書いていらっしゃるんです。誰かがそれに気づいてくれたらいいなあっていう密かな願いを込めて。

 

イ:やあ、面白いですね、それは。へぇー。

 

イ:はい。すごくお面白い話が聞けて、なんか私も嬉しいなあと思ったんですけれども。

(続く)