オンライン「日本児童文学」11・12月号を読む会の報告

『日本児童文学』編集部

Zoomオンライン「日本児童文学」を読む会の報告    
2025年1月8日(水)18:30~20:30 テーマ:11-12月号を読む
ホスト:奥山恵(編集長・評論家) ゲスト:山本悦子(作家)

日本児童文学者協会の定期総会が昨年5月に開かれ、今期の編集委員は任期を終えて、新しい編集委員会が発足しました。
11-12月号は、旧編集委員会が編集した最終号となるので、読む会は任期4年間をふりかえる会ともなりました。
参加者はHさん、Uさん、Oさん、Sさん、Kさん、そして、対談の西山利佳さん、ゲストは連載「万丸食堂、奇跡のソフトクリーム」の作者山本悦子さん、ホストの奥山恵編集長、相川美恵子編集委員、記録係の編集委員小川英子の10人です。

【連載の「万丸食堂、奇跡のソフトクリーム」について】
 まずは奥山編集長から「長編ではなく、短編連作の連載は4年間の任期ではじめてでした。登場人物が少しずつ重なっているのですが、それぞれの話の独立性の高い作品になっていました。一番印象が強いのは、オオカミ(山犬)の話(5-6号)、そして友だち4人で再会するタイムカプセルの話(9-10号)でした。方言も印象に残りました」と口火を切りました。
 するとつぎつぎに、「私もタイムカプセルが一番印象に強く、何が起きているのかわからなかったので、最初に戻って読み返しました」「連載が楽しみだった」「震災がこう書けるのかと思った」「今までいろんな連載があったけれどつい忘れる。今回はそんなことはなく読んでいた」「設定同一でよかった、どれも最後はホロッとする話だった」「連載は前の話がどうだったかを忘れてしまうが、こういう1話完結はうれしい。いい話が多く、涙しながら読んだ」「9月に花巻に行き、ソフトクリームを食べました。350円で大きい。ほんとに十段ある」と話がはずみました。
 そして、相川編集委員は、「全体として場所の大事さを示している。大切な場所が残されていることの意味、そこからリスタートするための物語として私は読んだ」と、この作品が「場所の物語」ではないかと述べました。
「場の物語であると同時に、失われずにある方言も重要で、日本は今、どこも同じような町並みになっているけれど、そういう中で生きていく「場所」と「言葉」、そういうことを考えさせられた」と。
さらに、「箸で分けるソフトクリームというのもシンボリックですね」と。
何人かで分けるという、人と人との関係性を象徴しているのではないかと話し、「最終話に(ソフトクリームを)作る人の物語をもってくるというのは、うまいなあ」と。
 そこで作者の山本さんから、創作裏話を聞きました。
「私は同人誌の「ももたろう」でも「鬼ヶ島通信」でも短編連作をしてます。本になった『神かくしの教室』(童心社・2016年刊)の時は、長い話を「ももたろう」で延々連載していたのですが、「鬼ヶ島通信」での連載を始めるとき、編集者から『1回で話を完結させてほしい。半年に1回の連載では前のを忘れてしまうから。それを防ぐために1話完結で、なお全体でつながる話にしてほしい』と言われたので、それ以来、連載ものはどこから読んでもだいじょうぶなように創っています」と。
今回は最初に各短編の主人公を決めたそうです。
「主人公を車椅子の男の子、タクシーの運転手、中高生の女の子、震災にあった小学生、旅館の女将、と決めていって、一枠余ったので、作っている人を入れた。マルカン食堂は一度閉店したけれど、十段のソフトクリームを作るのは技術なので、熟練の人でなければいけないというのを聞いていたので」
「マルカン食堂を舞台にしようとしたのは何故ですか」と奥山編集長が問いかけると、「連載の依頼を受けた時はまだ何も考えていなかった」と山本さん。
ただ、その年の4月に岩手県の花巻で、知人にマルカン大食堂に連れて行ってもらったことが、頭にうかんだそうです。
「(昭和の頃のような」大きい食堂で、(食事している)この人たち、ひょっとしたら別の時代から来たのでは? いろんなところから来て、食事して帰って行くのでは?」と、そんなことを考えたそうです。
ファンタジーが生まれた瞬間ですね。
 マルカンビル大食堂は、1973年のマルカン百貨店の開業とともにその6階にオープンしたので、1フロア全部が食堂でした。2016年の百貨店の閉店とともに閉鎖となります。けれど惜しむ声が多く、署名活動やクラウドファンディングの結果、2017年にマルカン大食堂として、席数560席で復活しました。
 その経緯は参考文献として挙げられている『マルカン大食堂の奇跡』(北山公路著・双葉社・2017年刊)に記されています。
そこで、さらに質問の声があがりました。「ノンフィクションで参考文献が挙げられるのはわかりますが、創作では珍しいと思いました。どんなことを参考にしたのですか」と。
山本さんは、「他にどんなメニューがあったか、震災後何日目から開けたのかとか、そういう細かなことを参考にしました」と答え、一つ一つの話にモデルはない、けれどそこを舞台にしているので、作品が描けたのは「マルカン食堂さまのおかげです」と。
「何故、不思議なことが起きるのか、その理由づけがほしい。それで岩手の風景を思い出し、『遠野物語』を読み直した。その中に子どもたちと遊ぶのが好きで、乱暴なことをされても喜んでいるお地蔵様が出てくる。それでお地蔵様を出そうと思った。お地蔵様が出るなら道祖神もと思い、屋上には道祖神がいると決めた」
 そして、岩手の知人にメールで問い合わせたり、実際の方言を使う友だちに原稿の方言をチェックしてもらったりと、いろいろ取材を重ねて作品ができあがったそうです。
「方言が素晴らしかった」「ソフトクリームの描写がおいしそう」と話が盛り上がるなか、山本さんから嬉しいお知らせがありました。
「本になる予定です」と。
あと1話書き足したら、全てがつながったそうです。
みなさま、どうぞお楽しみに!
【特集 深呼吸のときー環境危機と子どもの本―】
「環境危機は、編集長になってどうしても取りあげたいと思っていたテーマの一つです。論考2本と対談を中心にして、エッセイと興味を持った人が読みたくなるようなブックガイドをつけました」と奥山編集長。
その熱い思いを汲んで、任期の掉尾を飾るにふさわしい特集となりました。
また、今号の創作は、11月23日に開催された「児童文学セミナーin岡山」の講師の方々に依頼しました。特集を意識してか、環境危機に関わるような作品も寄せられました。
「小林夏美さんの論考はおもしろかった」「中西新太郎さんの論考で、児童文学の周辺でこれほど終末論があるとは知らなかった」と感想が述べられるなか、「論に挙げられた本の大半を知らない」と率直な本音もでました。「図書館には入っている。借りようとしたら貸出中だった。若い人は読んでいるのだ」という声もありました。
また、「中西さんの論の冒頭数行は、とほうもなく難しいことを問いかけている。もうリミットがきているのではないのか、本当に責任をもって(子どもに)伝える覚悟があるのか、地球そのものが疎外されている状況を私たちはわかっているのかと考えさせられた。世界の危機とはなんなのだろう……」と考えこみながらの発言もありました。
【エッセイやブックガイド】
 岩瀬成子さん、那須田淳さん、今西乃子さん、安田夏菜さんに環境問題についてのエッセイをお願いしました。
「(四つのエッセイは)いろんな角度から書かれていて面白かった」「岩瀬さんのエッセイが良かった。森や山の怖さが出ている。近くにそんな森がない。整えられた安全な”森”しかない」「岩瀬さんのエッセイに森への引力を感じた」と好評。
奥山編集長は、「岩瀬さんは著書に『ネムノキをきらないで』(文研出版・2020年)があるので、書いてもらいたかった。いつも総論・各論・エッセイという順番になるのだが、エッセイを巻頭にしたいと考え、ぎりぎりのタイミングだったが、並べ変えてもらった」と、編集の苦労を語りました。
編集委員がじっさいに読んだなかから、これぞという本を紹介している「ブックガイド」も、とても好評でした。
【作家とLunch~創作のひみつを探る~】
連載インタビュー「作家とランチ」の最終回は、ひこ・田中さん。
Zoomではなく、奥山編集長が京都までお訪ねしました。ひこさんの母校の大学の学生食堂でのインタビューでした。だからランチ代は、今までで一番安い425円(注:2014年7月現在)だったそうです。
読む会ではこの連載を続けてもらいたいという要望が出ましたが、じつは専任の取材スタッフが必要なくらい、たいへんでした。奥山編集長も同行する編集委員も、その作家の著作をほぼ全部読んでインタビューに臨んでいます。
「時間をかけていることがよくわかる。120%用意している。だからあれだけのツッコミができる」とねぎらいの感想をいただきました。ありがとうございます。 
「たいへんだけれど、その作家の今までにない話が聞けて、とても楽しかった」と奥山編集長。全12回のうち、4回を同行した相川編集委員も、「勉強する機会を与えられた。ほんとうに良かった」と語りました。
【その他】
「表紙がすてき」「坪田譲治の再録が面白かった。懐かしい名前がたくさん出てきた」「(誌面の)いろいろなところが楽しめた」という感想もいただきました。
 さて、この「Zoomオンライン「日本児童文学」を読む会」は閉じますが、本誌には「読者のページ」がありますので、ご意見・ご感想を郵送またはメールでお寄せ下さい。
 今まで読む会の報告を読んでいただき、ありがとうございました。
(記録係 小川英子)