156、那須さんの新作絵本が出ました!(2025,2,5)
【タイトルは「やくそく」です】
・那須正幹さんの、新しい絵本がポプラ社から刊行されました。タイトルは『やくそく ぼくらはぜったい戦争しない』、絵は武田美穂さんです。
那須さんは2021年の7月に亡くなられましたから、これは「遺作」ということになります。那須さんがその全著作権を、日本児童文学者協会に遺贈されたことは前に書きました。それを受けて、僕も含め5人のメンバーが「那須正幹著作権管理委員会」を構成し、この間、著作権の管理に当たってきました。
・著作権の管理というのは、主には、出版社や放送局・劇団などで、那須さんの作品を出版したり、放送したり、また劇化したものを上演するに際し、許諾を出すという仕事がメインですが、管理委員会としては、もしまだ本になっていない原稿があれば、ぜひそれを世に送りたいという希望も持っていました。
ただ、なにしろ那須さんのことですから、エッセイとかは別として、創作の未発表原稿、没原稿などというものは見当たらず、そうしたものはなさそうだと思っていました。ところが、10年ほど前に、広島の文化財団というところから、その時は被爆70周年ということになりますが、平和のコンサートのために、那須さんが歌詞を依頼され、二つ作った作品のうちの一つは曲がつけられて演奏されましたが、もうひとつの「おばあちゃんの詩」という作品が、“埋もれた”ままになっていることがわかったのです。
それを見てみると、歌詞というよりは、創作の短編という感じの作品で、これを絵本にできないかと考えたわけです。
・那須さんの絵本と言えば、西村繁男さんとのコンビの『絵で読む広島の原爆』がありますが、これはノンフィクションというか、ある種の科学絵本ともいうべきもので、ストーリー絵本としては、やはり武田美穂さんとのコンビの『ねんどの神さま』が代表作になります。
そこで、管理委員会としては、新作の絵本化にあたり、武田さんに絵をお願いできないかということになり、ご快諾いただきました。そして、今般の出版に至ったわけです。
・元のタイトルは、上記のように、「おばあちゃんの詩」ですが、絵本化に当たっては、管理委員会とポプラ社編集部で相談のうえ、「やくそく ぼくらはぜったい戦争しない」としました。
主人公というか、一人称ですから、語り手でもありますが、トオルという男の子とおばあちゃんをめぐるストーリーです。おばあちゃんは、幼い時に被爆し、両親と兄を失くしています。そのおばあちゃんが、トオルのことを「にいちゃん」と呼ぶようになったのです。どうやら、原爆で亡くなった兄の洋平さんと、トオルの区別がつかなくなったようなのです。
亡くなった人と一緒にされるのは困るトオルでもありますが、改めておばあちゃんの体験、悲しみと向き合うことになります。
・那須さんの思いは、被爆の体験を、今の子どもたちがどう受け継いでいくのか、ということにあったと思います。トオルは、おばあちゃんのことを通じて、「ぼくらはぜったい戦争しない」と心に誓いますが、その「やくそく」は、3歳で被爆した那須さんが心に秘めていた“やくそく”でもあったはずです。
その思いを、絵本という形で世に送ることができ、那須さんの思いに多少とも応えることができたことを、うれしく思っています。
・この絵本化の経緯や、内容については、協会ホームページの「那須正幹電子記念室」のなかで、詳しくお伝えするつもりです。ぜひ絵本を手に取っていただいて、「ぜったい戦争をしない」という約束を広げていただければと思います。