平和を考えるために今こどもたちに手渡したい本 第5回 「幸福の約束」 朽木祥
世界各地で起きている争いに思いを寄せると、とうてい寿げない新年の幕開けですが、だからこそ、こどもたちばかりでなく、できるだけ多くの方に手渡したい本があります。
その一冊が『原爆の子 広島の少年少女のうったえ 上下』(長田新編 岩波文庫)ーーー教育学者で広島大学名誉教授の長田新氏が編集した被爆児童たちの記録ーーーです。原爆投下時、あの空の下にいたこどもたちの声は、きっと現代のこどもたちにも届くことでしょう。他人事ではなく自分の問題として共感共苦を抱くきっかけにもなるかもしれません。さらに、負のできごとを知り「記憶」すること(記憶の義務)は、とりもなおさず未来に二度と同じ過ちを繰り返さないよう警戒すること(警戒の義務)に繋がります。
長田新氏は、『原爆の子』の序に次のように書いています。「こどもたちが皆そろって平和な世の中を作り出すような人間になってもらいたい。平和を築くことを人間としての最高の道徳と考えるような人間になってもらいたい」
この作品はノンフィクションですが、戦争児童文学の目指すところ、ひいては児童文学の目指すところは、この祈りにも似た願いに尽きるのではないでしょうか。それはすなわち児童文学が、こどもたちにできる「幸福の約束」でもあります。
さて、こどもと平和委員会には、戦争を描いてきた作家や評論家が参加しています。今回はその作品のうち、まず五冊をご紹介します。
戦後八十年。平和な未来を考えるために、平和な未来を迎えるために、今私たちがこどもたちに手渡したい本ばかりです。お手にとっていただければ、こんなに嬉しいことはありません。
『ある晴れた夏の朝』小手鞠るい(偕成社、文春文庫)
『ヒロシマ 消えた家族』指田和(講談社)
『戦争と児童文学』繁内理恵(みすず書房)
『ひろしまの満月』中澤晶子(小峰書店)
『光のうつしえ』朽木祥 (講談社)