新!「今の児童書 私の推し」第8回 押川理佐

子どもと読書の委員会

皆様ごきげんよう!
松本聰美さんよりバトンを受け取りました押川理佐です。

前回、松本さんが推されたのは、キャサリン・アップルゲイト作『ハミングベアのくる村』(偕成社)。

不思議な生き物や小さな奇跡が織りなすファンタジーでありながら、現代の環境問題に通じるテーマに底支えされた、非常に魅力的な物語でした。

 

さて、今回私が推すのは、マヒトゥ・ザ・ピーポー文、荒井良二絵『みんなたいぽ』(ミシマ社刊)。
スケールもなにもかも、規格外にぶっとんだ、美しい絵本です。

舞台はどこか混とんとした町の中。「おまわりさん」が、「わるいやつ」をつかまえて、次々とろうやへ入れていきます。事情を訴えても容赦なし。

ところが、ひどい言葉で傷つけられたという人が訴えます。
「ことばもたいほしてください」。
それを聞いておまわりさんは、ことばをたいほしてろうやに入れます。また、肌の色の違いで傷ついた者の訴えを聞き、色もたいほします。おまわりさんはさらにダイナミックなたいほを繰り返し……。

 

去年書店で見かけて、タイトルからして「なんじゃこりゃ」と手をのばし、最後には思わず声を出して笑ってしまい、それは別におかしかったからではなくて、異様な爽快感というか、胸の血が湧いたというか……。

 

文はバンドGEZANのボーカルの方で、これが初の絵本作品とのこと。
まるで子どもがその場で書いたような無垢で自由な展開に、ふと、以前何度か体験したいしいしんじさんの「その場小説」を思い出しました。
あるいは、詩人白石かずこさんのポエトリーリーディングのような、エネルギーあふれる即興性。

 

「きれいにまとめる」とか、「メッセージ性」とか、大人はついつい気にしがちですが、そんな姑息なものが脳からふっとぶような天衣無縫さ。
とはいえ、決して単なるナンセンスではない。

 

この世に生まれて誠実に生きて来た誰かの鼓動の音や、呼吸や、角膜に刻まれた景色を、色と文章とで追体験させて貰ったような、そんな強烈な印象を受ける絵本です。
エネルギーが枯渇しがちな秋冬におすすめの一冊!

こちらは版元のサイトにあった、編集の筒井大介さんのレビューです。ご参考まで!

 

「推し本」リレーはここで2周。今回がラストです。
次はまた新たな楽しい企画がありそうですので、皆様どうぞ乞うご期待!🌟