Zoomオンライン「日本児童文学」を読む会の報告

『日本児童文学』編集部

Zoomオンライン「日本児童文学」を読む会の報告    
2024年8月27日(火)18:30~20:30 テーマ:5-6月号と7-8月号を読む
ホスト:奥山恵(編集長・評論家) ゲスト:荒木せいお(作家・編集委員)

 今回は「子どもの文学この1年」特集の5-6月号と、「児童文庫の世界」特集の7-8月号の2冊を読む会でした。
参加者はHさん、Sさん、年度回顧座談会出席のおおぎやなぎちかさん、ノンフィクションの年度回顧の若月としこさん、児童文庫あれこれの服部千春さん、相川美恵子編集委員、ゲストの荒木せいお編集委員、ホストの奥山恵編集長、そして記録係の編集委員小川英子の9人です。

【5-6月号の特集の年度回顧座談会から】
 5-6号は1年間をふりかえる年度回顧の特集です。
ゲストの荒木さんは「僕も編集委員なので、自己批判を含めて、厳しく言おうと思います」と口火を切りました。
まず、「座談会で面白かったのは、詩について論じているところ」、その一方で、「創作については物足りなかった」「1人10冊を挙げているが、(座談会の出席者は)4人だから40冊。自分の推している本を紹介しているとそれで(時間が)いっぱい」「10冊は多すぎるからもっと絞って、それぞれが一押しを議論した方が良かったのではないか」と、問題提起をしました。
これを受けて、奥山編集長からは「以前は10冊であっても重なっていた。今年は重なっていない」との指摘があり、「それが今年の特徴かもしれない」と。
座談会に出席していたおおぎやなぎさんは、「私は10冊のうち6冊は俳句・短歌・詩の分野でといわれたので、その縛りがなかったら重なったかもしれません」、そして、「じっさいはもっと長くいろいろ話しています」と。
 また、「10冊選ぶためにたくさんの本を読み、さらに座談会前に読み返し、他の方の本30冊も読みました」と、この座談会のための準備のたいへんさも語られました。「個人的には詩歌を入れてもらって嬉しかった。詩や短歌・俳句は自費出版が多いので取りあげられて嬉しい」と。
 そこから、詩歌について、「座談会の焦点を絞れなかったのは詩歌を入れたからではないか(去年の座談会には入っていない)」「詩歌を論じるのはむずかしい」「詩は個人の営為なので、今のこどもたちに対してどう関わるかというような共通課題という意識はないのではないか」「短歌はYA的」「俳句は小学生にも親しめる」「季語は言葉に対する感覚を養う」「詩歌を出す出版社は限られている」等々、さまざまな感想や意見が出されました。  
 また、参加者から『ざわざわ』という詩の雑誌があって、これがとても面白い」と紹介がありました。表紙も素敵で、みなさんも手に取って見てください。
「ざわざわ~こども文学の実験」という、詩と創作、評論の雑誌です。編集は草創の会。四季の森社から発行。2015年に創刊され、不定期刊行で現在第8号がでています。

【年度回顧の各論考から】
 ノンフィクション分野の年度回顧を書いた若月さんからも、「当初、5冊で書いたら、10冊は挙げてほしいと言われて、買ったり借りたり」と。でも、「他の方の書いた本を意識して読み、それについて発表するというのは無かったので、良い経験になりました」と語られました。
「読んだ全部を載せるわけにはいかない。結局自分の感動した本、好きな本になる」とも語られました。この1年間をどう読んだか、そのせめぎあいのなかで選んだ10冊だそうです。「ノンフィクションはまったく知らないところに入って(取材して)いく。その苦労はわかっているので、(書き方が)物足りなくても、よくここまで調べたと共感してしまう」と、つい本音をもらしていました。
 作品を書くのもたいへんですが、それを批評するのも簡単にできることではありませんね。5-6月号の年度回顧特集は決まっているので、通常より早く、夏には依頼し、〆切は年明けて2月です。
 荒木さんは「いろんな論考があるが、(論者は)一押しを見せてほしいと僕は思う。その点、若月さんは面白がって書いているということがはっきりわかる。だからこの桶作りの『巨大おけを絶やすな!』(竹内早希子著)は読んでみたいなあと思った」と感想を述べました。
奥山編集長も「年度回顧は本の紹介ではない。この本をどう読んだか、どう思うかの評論であってほしい」と。

【7-8月号の児童文庫の世界特集】
 次いで、7-8月号に移りましたが、やはり、荒木さんが口火を切って、「往復書簡をメールでというのは編集長の案だけど、令丈ヒロ子さんとあさばみゆきさんのメールが短期間で届き、それを読んだら、予想を超える展開で。児童文庫を知らない人にもその歴史や課題や書き手の思いも届けることができる内容だった。一人二役で書いているのではないかと思うくらい、わかりやすい。良い企画になったと思う」と。
 奥山編集長も「年明けから、お二人のメールのやりとりがつぎつぎ進んで。まるで会話に立ち会っているようなライブ感がありました。2月の1ヶ月をねかせて、3月に読み直しをしました。児童文庫の研究者や資料も少ない中で、今号は今後の研究の資料になるのではないか」と話しました。
また、荒木さんは、「針とらさんの「小説家とパン屋さん」は、児童文学と児童文庫の作られ方や気配りがちがうというのが明確になるエッセイだった。服部千春さんのコラムも含め、知らなかったことが多くて、勉強になった」とも。
 その「児童文庫あれこれ」のコラムを書いた服部千春さんは、「私は福島正実記念SF童話大賞の『グッバイ! グランパ』でデビューしたあと、何を書いていいのか、どうしたら本を出せるのかと悩んでいたときに、青い鳥文庫の編集者に出会って書くことを勧められた。それが『四年一組ミラクル教室』のシリーズ。児童文学も児童文庫もわからないうちに書いていた」とデビューの頃を振り返りました。
「その頃はまだエンターテインメント性のある作品に理解がなかったような気がする。だから、今さらと思いながら今回の執筆依頼をいただきました」と。そして、「児童文庫は今ゆれている。そのことを令丈さんがはっきりとP40で発表してくれて良かった」と。
すると、編集長も、「編集者アンケートでも、今後どうしていこうか、立ち止まって考え直そうとしているのが見える。それなのに、今後どうなるのかが見えてこない。児童文庫が盛り上がっているときではなくて、どうなるかというところでの特集では遅かった」と今まで特集を組んでこなかったことを反省。「日本児童文学」で児童文庫を取りあげたことはあるのですが、それはもう20年ほど前でした。
「往復書簡は面白かった」「お二人はこれだけ考えているのかと思った」「児童文庫は賞がたくさんあってデビューはできるけど、その先はどうなるのか」「令丈さんだから今のあり方にも批判が言える」「作家デビューされた新人作家さんが消されていくのがいやだ」「昔は、数撃てば当たるだったけれど、今は、数撃っても当たらない」「子どもたちにしてみれば違う顔に見えるのかもしれないが、(読者の)私には同じ顔に見える」「学校図書館には児童文庫は入っていない。手にする子が多いので(ソフトカバーの)児童文庫はボロボロになってしまう。どうしてもハードカバーが多くなる」「数年前だが、書評で服部さんの『もしも、この町で』全3巻を、榎本秋さんが誉めていたので読んでみた。面白かった」「その服部さんの『四年一組ミラクル教室』シリーズを、『これ、全部主人公が違う』と言って、夢中になって読んでいる子がいた」と、いろいろな感想が出ました。
 また、「文庫の中には岩波少年文庫も、詩集などもありますが、今回の特集に取りあげられていないのは何故ですか?」という疑問に、編集長から「今回は書き下ろしを中心にした。ライトノベルやヤングアダルトまで範囲を広げないで、小学生向けの児童文庫に限定をした」と説明がありました。
児童文庫が発売2週間の売れ行きで打ち切りが決まることもあるということについては問題となりました。書評の掲載などは半年ほど遅れる、後から評価が高まるということもある、それなのに打ち切りというのは……
服部さんは「1巻の売れ行きで今後の刊行予定を考慮され、3巻でもう(話を)まとめてください、といわれたこともある」と実情を。
思わず「それで子どもたちは納得するんですか」と質問が飛びました。「納得しません。数少ないけど、ファンというのはいらっしゃるんですよ」と服部さん。続きを書いてくださいとファンレターが届くそうです。
 また、「児童文庫はエンターテインメント重視で、それ以外は文学性重視という風にスコンと分けない方が良いのではないか」「児童文庫が追求してきた面白さを支える要素には、たとえば子どもの興味の変化が早いなかで、それに後れを取ることなく時代の流行を物語の中に取り込めるフットワークの軽さと、それと相反するようだが、ある種の保守性があると言えるのではないか」「今の私でいいのだと自分を励ましてくれる本もあるけれど、自分が当たり前だと思っていた価値観をぐらぐらと揺さぶる、かーんと突き放されたように感じる本もある。エンタメと文学性という分け方とは別に、そんな風に分類することもできると思う」と、面白さの中身についても意見が出ました。
 さて、本誌今号の売れ行きが良いという話も出ました。表紙も特集に合わせて、児童文庫の画家さんにお願いしたので、いつもと印象がちがうかもしれません。
「児童文庫は画家さんもスカート丈など性的なことのないよう、とても気を遣って描いている。今号の表紙に条件は付けなかったけど、小学3年から読むということを意識して描いてくださいと依頼した」と編集長は話しました。

【その他】
「作家とLunch」は「お昼を食べながら日常を語るなかで、作家の人間性が出てくる」ので、このコーナーが好きだという感想がでました。
「最上一平さんが『赤毛のアン』が好きだと知らなかった」という感想には、編集長も、「5-6号の最上さんも7-8月号の村中李衣さんも、知っている方だけれど、インタビューでは今まで聞いたことのない話が出てくるのに驚く」と。それだけ作家がリラックスして打ち明け話をしてくださるのでしょう。
掌編の「まかせてパン子ちゃん」は「面白かった。絵本になるのではないか」
掌編「ランチョンとマット」は、「なかなか面白かったけど、今あだ名で呼ばないということがあるので、むずかしいのでは」「本人がいいよという形にしてますね」という感想がありました。
 絵童話「ペンギン」は、「たしかに椎茸をうまく煮るとペンギンのつやつや感に似ている。小さな子どもの視点から描いている」「なんてこんな面白いのが出てきたんだろう」と好評。
 編集長からは「5-6月号は年度回顧でどうしても文が多く、固い感じになるので、絵を入れたかった。1年前からお願いしていた」と。
また、星座占いのページについては、「高橋桐矢さんは『あたしたちのサバイバル教室』や『あたしたちの居場所』の作家だと思っていた。占いをすることは知っていたが、その占いを初めて見た。面白かった」と。「(占い師として有名な)高橋桐矢さんをなんて贅沢に使っているんだろう」という感想も。
「児童文庫特集なので、楽しい占いを」という依頼に、高橋さんは星座占いで応えてくださいました。こんな遊び心も雑誌には必要! 読者のみなさんもぜひ、ご自分の星座のラッキーカラーや開運食べ物を試してみてくださいな。
(記録係 小川英子)