143、気候危機は子どもの権利の危機(2024,9,15)
【関係団体の雑誌で】
・協会の事務局には関係団体が発行している機関誌などが、いろいろ送られてきます。先般コラボ特集をした児童文芸家協会の『児童文芸』(季刊)、日本子どもの本研究会の『子どもの本棚』(月刊)、親子読書・地域文庫連絡会の『子どもと読書』(隔月刊)など、子どもの本関係の団体の雑誌に加えて、教育関連、図書館関連などの雑誌も送られてきます。
・僕は、概ね週一回程度、事務局に出かけますが、大急ぎの用事がない時はまずこうした雑誌にざっと目を通します。12日は夜から理事会(リモート)で、お昼前に着き、これらの雑誌を眺めて気づいたことがありました。別の雑誌が同じ問題を取り上げた特集を組んでいたのです。一つは、SLA(学校図書館協議会)の『学校図書館』と、図書館問題研究会の『みんなの図書館』の10月号が、どちらも読書バリアフリー法のことを特集していたこと。まあ、これはわかります。やや意外だったのは、これは雑誌ではなく、日本子どもを守る会が毎年夏に出している『子ども白書』の24年版の特集が「気候危機は、子どもの権利の危機」だったこと、そして教育科学研究会の『教育』の10月号も、「地球沸騰化時代のわたしたち」という特集を組んでいたことでした。
なにしろ、この日も暑くて、汗を拭きながら事務所に入ったら、「気候危機は、子どもの権利の危機」というタイトルが目に入ったので、すぐに手に取りました。
【なぜ、「子どもの権利」の危機なのか?】
・「気候危機が子どもの危機」というのは、わかります。このままいけば温暖化はさらに進み、その影響をもろに受けるのは、僕らのように先の短い人ではなく、今の子どもたち、そしてこれから生まれてくる子どもたちでしょう。僕は知らなかったのですが、昨年の8月に、国連子どもの権利委員会が、「一般的意見26号 子どもの権利と環境~特に気候変動に焦点を当てて」を発表しているのですね。「一般的意見」というのがどういうカテゴリーなのかわかりませんが、条約批准などを前提としない意見書というようなことでしょうか。
・スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが、2018年に「気候のための学校ストライキ」を起こしたことはよく知られていますが、翌19年、彼女を含む12か国の16人の少年少女が、国連子どもの権利委員会に対して、「気候危機は子どもの権利の危機」だと救済を申し立て、これ自体は不受理でしたが、こうした運動が上記の「一般的意見」の発表につながったのですね。「子どもの権利の危機」が、まさに子どもたち自身の意見表明の権利を行使する形で公にされたということに、一筋の光明を見るような気もします。(16人の中に、日本の子どもはいるのでしょうか?)
・日本子どもを守る会は、当協会も加盟している団体で、昨年の公開研では会長の増山均さんにご講演いただきましたが、この『子ども白書』(かもがわ出版)は191ページで、気候危機の問題に50ページを割いています。2800円で購入は厳しいかもしれませんが、なぜ「子どもの権利」の危機なのか、ぜひ図書館にリクエストするなどして、お読みになってください。
【雑誌『教育』では……】
・こちらは第二特集なのですが、「地球沸騰化時代のわたしたち」。「温暖化」ではなく「沸騰化」という言葉もさることながら、「子どもたち」ではなく「わたしたち」という言葉に、わたしたち大人の責任を問うニュアンスを感じて、こちらも目を惹かれました。
・特集の冒頭に、京都教育大学准教授の丸山啓史さんが「絶望を抱えながら歩む―気候危機に向き合う大人の役割」という文章を寄せていて、少し長くなりますが、初めの方を引用します。
《ほとんどの大人は、気候変動の問題を真剣に考えていない。私は、そう感じている。
地球温暖化を気にかけていても、「温室効果ガスの排出量を減らせば、気温は下がっていく」と思い込んでいたりする。残念ながら、その思い込みは間違っている。実際には、温室効果ガスの排出量が半減したとしても、気温は低下せず、上昇を続ける。温暖化が進んでいるのは、年間の温室効果ガス排出量が増えているからではなく、大気中に温室効果ガスが蓄積されていっているからだ。蓄積の勢いが弱まっても、蓄積が続く限り、気候変動は進行する。》
どうでしょう。僕なども、やや“思い込み”派だったような気がします。丸山さんは、さらに「気候危機の全体からすれば、おそらく、近年の猛暑や水害は「序の口」でしかない」と述べ、「気候危機を解決しなければ、教育制度を豊かにしても、魅力的な授業を工夫しても、近いうちに成果は崩れていく」「気候変動を止めない限り、今の子どもたちにまともな未来はない」と警告しています。
実は、『日本児童文学』の次の11・12月号は、「環境危機と子どもの本」特集です。正直なところ、僕はこの特集企画を聞いた時、ピンとこないというか、児童文学の問題? というふうに思っていました。だめですね。僕の方こそピンときてなかったようです。最後は、『日本児童文学』の宣伝のようになりましたが、『子ども白書』そして雑誌『教育』、図書館などでぜひ目を通してみてください。(なお、雑誌『教育』10月号の第一特集は「学習指導要領体制をのりこえる」で、この中で、7月のブログ(№137)に書いた奈良教育大付属小学校の実践の意味についての論考も掲載されています。)