新!「今の児童書、私の推し」第6回加藤純子

子どもと読書の委員会

8月の推し本は、鳥野美知子さんの推し本、

『あたしは本をよまない』コウタリリン・作(BL出版)でした。鳥野さんと同じで、書き出しに惹かれました。グッと読者の胸を掴む出だしです。

「教室はうるさい箱だ。その中で転校生の木田くんはいつもひとり、しずかな・(てん)みたいにすわっている」印象的な言葉です。

 

今月の、私の推し本は、『りんごだんだん』(写真と文・小川忠博・あすなろ書房)です。

りんごを一年間置いたままにしていたら、どうなるかという視点での、写真絵本です。

 

写真家は、じっと観察します。真っ赤でツルツルのリンゴを。

これを、置いておいたらどうなるか。

リンゴの1年間を、写真で追いかけます。

こういう絵本を初めて見ました。

言葉も少ないし、でも、科学に興味のある人なら、こうしたリンゴの腐敗していくプロセスの、この絵本のコンセプトに驚きを抱くでしょう。

89日目、119日目、りんごにだんだん、シワができ始めます。そして207日目、りんごにヒビが入り、そこから汁が出てきます。

汁が出てしまうと、220日目にはしわしわになります。

そしてカビが生え、241日目には、りんごとは思えない姿に・・・。

 

写真家は、この状況をなぜ撮りたいと思ったのでしょうか。

ある意味、生き物はどうやって枯れ、朽ちていくか。それを、リンゴで実験したかったのでしょうか。

腐敗という概念が、抽象的に描写されています。

 

とにかく画期的な写真絵本です。

290日目になると虫が湧いてきます。その虫が腐敗したリンゴを食べ尽くします。

そして最後、ボロボロに朽ち果てたリンゴから、お腹がいっぱいの虫が出てきます。

残虐とも思えますが、自然の摂理でもあります。こうした視点で、リンゴがだんだん腐敗していく様子をカメラで写し、簡単な文章をつけるという発想に、とても驚きます。

2023年のJ B B Y賞を受賞した絵本です。

次回10月は松本聰美さんです。どうぞお楽しみに。