134、再び、風船爆弾。そして、「本の紹介」のこと(2024,6,15)

理事長ブログ

【ゴミ風船?】

・前回、『女の子たち風船爆弾をつくる』を紹介しつつ、風船爆弾のことを書きました。そしたら(という感じでしたが)、ニュースで「北朝鮮が風船を」というので、「えっ、まさか風船爆弾!?」と思ったら、ゴミをくっつけた風船を韓国に飛ばしたというので、苦笑してしまいました。ただ、その後で、これは結構微妙な狙いを含んでいるのでは、と思いました。

というのは、上記の本にも書かれていますが、日本軍の風船爆弾の作戦には、「爆弾」だけでなく、化学兵器や生物兵器を搭載するという計画も含まれていたようなのです。つまり、病原菌などをこの風船を通じて、アメリカ本土にばらまこうという計画があったわけです。

このことは、何年前になるか、協会の「子どもと平和の委員会」が企画した、川崎の旧陸軍・登戸研究所の見学の際に知りました。ここは、風船爆弾を開発したところでもあり、その実物大のモデルが展示されていて、その大きさにちょっとびっくりしました。そこに生物兵器のことなども書かれていました。

ここは日本軍の、言わば謀略用グッズの開発センターのようなところで、印象的だったのは、紙幣の印刷機。記憶が定かではありませんが、ドイツ製だかの最新鋭のもので、これで中国の紙幣を大量に作っていたのです。もちろんニセ札なわけですが、これを中国本土に流通させることで、経済のかく乱を狙ったということでした。そんな「作戦」もあったわけです。

・日本軍の風船爆弾のことは、もちろん北朝鮮は知っているし、生物兵器の計画のことも知っているでしょう。今回は、「ゴミ風船」という、嫌がらせとしか思えないような行動でしたが、ニュースによれば韓国の778ヵ所に落下したということで、韓国の人たちは、これが爆弾だったら大変だと思ったでしょうが、さらに化学兵器、生物兵器だったらと思うと、ぞっとします。そして、北朝鮮の狙いは、「いざとなったら」と、そういう意味を含んだ脅しでもあるように思うのです。日本軍が開発した風船爆弾が、80年経った今、こんなふうに“利用”されていることに、背筋が寒くなる思いでした。

【話、変わって……】

・前回、上記の本の紹介を書いたのは、なんとなく、「本の紹介をしたいな」と思っていたところに、たまたまアンテナにかかった本があったからですが、書く前は、紹介したい本がもう1冊ありました。それは、『この窓の向こうのあなたへ』(出版芸術社)という本で、小手鞠るいさんと佐藤まどかさんの往復書簡をまとめたものです。小手鞠さんはアメリカで、佐藤さんはイタリアに住んで、日本の読者に向けた作品を書き続けているわけで、改めて「児童文学を書く」ことの、大人の作家にとっての意味を考えさせてくれる一冊でした。

・後で考えて、僕が本の紹介をしたいなと思ったのは、多分その前に見たテレビ番組の影響もありそうです。僕は知らなかったのですが、教育テレビで「理想的本箱 君だけのブックガイド」という番組があるのですね。半月ほど前か、新聞のテレビ番組欄で「眠れない時に読む本」という文字が飛び込んできて、「えっ?」と思ってしまいました。というのは、もう40年近く前になりますが(話がいちいち古いですが)、偕成社から「今日はこの本読みたいな」という16冊のアンソロジーが出ていて、石井直人さん、宮川健郎さん、そして僕という、当時にあっては若手評論家三人が編集委員のシリーズでした。そして、僕が関わった本の中では、もっとも売れたシリーズでもありました。その中に、「眠れない日に読む本」というのがあるのです。「なんだ、パクリじゃん」とも思い、初めてこの番組を見ましたが、紹介された3冊のトップが、『トムは真夜中の庭で』だったので(あとの2冊は児童文学ではありませんでしたが)、許せて(笑)しまいました。この作品は、僕が海外の児童文学作品で1冊お勧めを言えといわれれば、挙げる作品でもあります。それだけに、どういう紹介のされ方をされるかなと興味深く見ましたが、僕から言わせれば、60点という感じでした。

僕は言わば本の紹介をするのが“商売”なわけですが、その魅力をどう伝えるかは確かに難しい。種明かしをしてはなんにもならないし、かといって、ある程度中身を書かないと伝わらない。大人の小説の場合は、作家の名前を言うだけで、ある程度伝わるものがあると思いますが(「宮部みゆきの新作です」というだけで、結構な情報になるでしょう)、児童文学ではそうはいきません。ひるがえって、前回の『女の子たち風船爆弾をつくる』の紹介が、どれほど「読もう」という気を起こさせたか、わが身を反省したことでした。(※パソコンの不調でアップが遅れました。)