1・2月号と3・4月号を読む会の報告
2024年4月24日(水)18:30~20:30 テーマ:1-2月号と3-4月号を読む
ホスト:奥山恵(編集長・評論家)・ゲスト:西山利佳(評論家)
今回は、コラボ特集「feat.「児童文芸」」の1-2月号と、「短いふしぎの物語―昔話、メルヘン、幼年童話―」特集の3-4月号の2冊を読む会でした。
参加者はHさん、Yさん、Mさん、「編集部座談会」に出席された「児童文芸」の編集長石川千穂子さん、「切り絵エッセイ」の筆者ひだかのり子さん、「安房直子作品に見る「断片」」の筆者大沼郁子さん、「児童文学に喝!!」の筆者中川なをみさん、短編「大山デパート」の鳥野美知子さん、掌編「おふろにいたトラ」の森くま堂さん、ゲストの西山利佳さん、奥山編集長、そして記録係の編集委員小川の12人です。
初参加の方が多いので、今回はかんたんな自己紹介から始めました。
中川なをみさんや森くま堂さんは遠方からの参加です。夕食の支度中で「エプロン姿でーす」という方や移動中で声のみの方もいて、気軽に集まれるオンラインの良さをあらためて感じました。
【1-2月号のコラボ特集について】
まずはゲストの西山さんから、「父横溝正史の思い出をつづった「「わが父とわたしと児童文学」思い出すままに」(野本瑠美)が面白かった、こういう形で文学史をふりかえることができて、とてもチャレンジングな特集企画だったと思う」と。
すると他の方からも、「フィーチャリング特集は画期的なことではないか」「今号は盛りだくさん(読み応えがある)」「いつになく丁寧に読んだ」という声が出ました。
フィーチャリングというのは「招待」とか「主役に据える」の意で、「(一社)日本児童文学者協会」と「(一社)日本児童文芸家協会」のそれぞれの機関誌が、過去のイチオシ記事をお互いの誌面に招待したり、相手の会員に創作を依頼したりしました。
また、「理事長対談」「編集部対談」を行い、それぞれマチネ・ソワレとして、半々ずつ掲載しました。「時間」をテーマにした掌編募集の合同企画も行いました。
それぞれ独自の歩みをしている2つの団体がコラボをしたわけですが、「合同できてかえってお互いの違いがわかった」「違っていていいのだと思った」という感想や「違う団体なので、そんなに意識しなくてもいいのでは。こういう企画も一度くらいは必要だが……」という意見もでました。
今号の特集については、「次郎丸忍氏の編集後記が全部言い当てているのではないか」という感想もありました。最終ページなので読んでいない方も多いかもしれませんが、それは、「似た活動をしているのに二つあるということは、対立しているのではと想像していた方もいるのでは。しかし今回そうではないことが世間一般にバレてしまった(笑)〈略〉仲良しこよしがいいのかと問われると、それは?だ。程よい距離と緊張感が互いを高めてきたのではないだろうか」というユーモアあふれる、しかし鋭い指摘でした。
石川編集長が「今江祥智さんなど大物作家が同人誌評をしていることに感動しました」と話し、奥山編集長は「今まで「日本児童文学」では、同人誌をしっかり読んで、同人誌評を掲載している、そこから安房直子等、注目する作家を早い段階で取りあげている」と、同人誌で学びあうことを大事にしている日本児童文学者協会の姿勢を語りました。
合同募集の選考もそれぞれ違いがあり、重なって選ばれたのは、「いつか駆けよう」(萩原弓佳・日本児童文芸家協会会員)だけです。
事前に1編のみと決めていたわけでも、両編集部が相談して決めたわけでもありません。その公平な選考経過はそれぞれ掲載しています。
石川編集長は「最初はこんなにたくさんの企画を全部できるのかと思ったが、一年かかってこれだけ出来ました。理事会でも評価されました」と、苦労話を披露されました。
両編集部で準備を重ねての発行だったので、お互いの誌面が好評で、編集部一同、ほっとしています。
ところで「児童文芸」の表紙は、「対談する二人の恐竜」(表紙絵・長崎真悟 表紙デザイン・サンライズガーデン)です。コーヒーを飲みながら話す恐竜たちが、お互いの雑誌を手にしているのをお見逃しなく!
また、切り絵エッセイ「モロッコ、ばらの少女」の切り絵原画(ひだかのり子)は、誌面ではモノクロですが、じつは夕焼けも美しいカラー作品です。千葉県柏市の書店、ハックルベリーブックス(奥山編集長が店主)で展示されています(見学無料)こちらもお見逃しなく!
【3-4月号の特集 短いふしぎの物語―昔話、メルヘン、幼年童話―について】
3-4月号の特集は「短いふしぎ」です。「長いふしぎ」は9-10月号で特集します。
といっても、たんに長さでふしぎの物語を分けたわけではありません。
「短いものには短い意味がある、長くしてはいけないものがある。そこを三本の論考で探ってもらいました」と奥山編集長。
西山さんは「1-2月号の創作時評は「「ふしぎ!」な世界観」というタイトルだった。3-4月号のこの特集は今の創作状況ともつながっている」と指摘。「童話=ふしぎな話ではない」として、「スルッとあっちに行って、スルッとこっちに戻ってくる。入口があり、出口から戻ってくるのではない」と話しました。
その発言を受けて、奥山編集長は「スルッとふしぎに行けるのが、昔話や伝承の世界。そういう部分もふまえつつ、児童文学を創作してきた歴史がある」と。
安房直子研究者の大沼さんは、自身のコラムに触れつつ、安房直子や『ナルニア国物語』を語り、「伝承の結晶をいくつもパーツを組んでいくように組んでいくのが長いふしぎで、短いふしぎはそのパーツが一つだけ、ということではないか」と述べ、いろいろな意見が活発に交わされました。
今号の創作は、特集にちなんで「短いふしぎ」を書いてくださいと依頼したので、執筆された方はあらかじめテーマを決められてたいへんだったと思います。
森くま堂さんは「『いやいやえん』や『ピノキオ』が好きだった」そうです。「キツネとかが出てきて危ない目に会うところなどが」。そして「曲がり角や物陰の先に何かあるのではないか、何かが待っているのではないか、そんな想像をしていた」と。なるほど、そこで怪しげなトラが出てくる掌編「おふろにいたトラ」ができたのですね。
鳥野さんは「じっさいに放置されている古いデパートが田舎にあって、撤去するにも余裕がないみたいで。昔はよくそこに遊びに行った」と、短編「大山デパート」の発想の元になった思い出を語りました。「仕上げたら2枚半多くなって」とそこから削った苦労話もありました。
また、再録された「安房直子論」(安藤美紀夫)についても感想がたくさん出ました。「青のイメージが印象に残る」「透明感がある」等々、安房作品の色彩について、それぞれの思い出も語られました。
奥山編集長からは、「解題」で指摘した、指で窓を形作る「きつねの窓」は、初版は「ひし形」だが、挿絵(司修)は「三角」。もしかしたら初期原稿は三角だったのかと、さかのぼって調べてみたがわからなかったと報告がありました。「解題」の1行の背景にはそんなこともあります。
【創作時評について】
今号の小林夏美さんの創作時評(高学年以上)が「良かった」と好評でした。
「このように評者が個人の立場でテーマを持って評するのがいい。作家としては誉められたら嬉しいけれど、否定されたとしても(その評は)次の作品に生かされるからいい。小林さんの評のすべてに賛成するものではないけれど、立場をはっきりさせて(作品を)読んでいるところが良い。最近は作家に寄り添ったというか、甘い言葉が多くなっている。これからも小林さんのような批評を載せてほしい」という意見がでました。
西山さんも「小林さんの指摘は重要で、今後読んでいく上で、うかうかしていると「マジョリティに利する」のではないかと、釘を刺してくれた」と。
「明快な物語」のもつ危うさや「読みやすい文章、吸引力のある展開」に、書き手も読み手も「流され」ないようにしないといけないですね。
奥山編集長は「ちゃんと評論するのは難しい。時評は本の紹介ではなく、評論なので、なかなか書き手がいない。それに、批評されることに慣れていない作家も多い。でもこの雑誌の特徴というか、大事にしてきた部分なので充実させていきたい」と答えました。
「批評を読んで作家も育っていく。書き手がいないから止めるとか縮小するというのはちがう。評論の方に頑張ってほしい。この雑誌が唯一学べる場所。むずかしいなあと思いながら、読んで学んできた。もっとその場所を広げてほしい」という意見が出て、励まされました。
また、この時評のなかで、『杉森くんを殺すには』(長谷川まりる)の取りあげ方が「ネタバレになっているのはどうなのか」という疑問も出ました。
「(ネタバレは)初読の読者を意識していない」「表紙を見れば明るいので殺すという感じではないのはわかる。でもたしかにダイレクトに書きすぎているかな」「図書館の選書の参考として読んでいるので気にならない。そもそもこの時評を読むのは子ども読者ではない」「批評の場合、過度にネタバレを恐れる必要はないと思う」等々、本の「紹介」と「書評」の違いについてもいろいろな意見が出ました。
【作家とLunch―石井睦美】
「作家とランチは聞き手の力が大きい。石井さんの多面的な世界がうまく引き出されている。(インタビューの)テーマ性がはっきりしている」とまずは誉めていただきましたが、「しかしそれがいきすぎると、発言した人の言葉が聞き手の思惑に当てはまってしまう、企画に当てはめてしまう危険もある」という懸念が出されました。
奥山編集長もその危険性は考えているけれど、「事前に一応インタビュー内容を整理していくが、いつも意図していないものが話しているうちに出てくる」ということでした。
とくに今回のインタビューでは、「いつもその作家の作品を全部読み返していくが、今回は時間がなく、読み返しただけで精一杯で、何を訊こうという余裕もなかったが、話がはずんだ」そうです。ふるまっていただいた手料理もとても美味しかったとか。
【児童文学に喝!!】
今号の執筆者の中川さんは「私が喝だなんて、そんなえらそうに上からいいたくない」と当初断ったそうです。奥山編集長も「みなさん躊躇して、依頼しても断られることが多い」と。
でも「喝」は禅のさとりを開く契機となる言葉で、編集部としてはみんなが気がつかないような弱点や足りないところをレジェンドに指摘していただければという意図があります。
奥山編集長に説得されて引き受けた中川さんは、「「含羞」は川村たかし先生の言葉で、どういう意味ですかと訊いても答えてくださらない」「この言葉を遺産として心のどこかに留めていただければ」と、「言葉の遺産」に込めた思いを語りました。
【フォント】
3-4月号から使用フォントがすべて、ユニバーサルデザインの字体となりました。引用記事と比較して見ると、その読みやすさがわかります。
今後も読者の意見を取り入れて、読みやすく、わかりやすく、学びやすい誌面をめざします。次号の読む会にもご参加ください。 (記録係 小川英子)