「日本児童文学」11・12月号を読む会の報告

『日本児童文学』編集部

Zoomオンライン「日本児童文学」を読む会の報告

2023年12月20日(水)18:30~20:30 テーマ:11-12月号を読む

ホスト:奥山恵(編集長・評論家)

 

今回は、特集「クリスマスをよむ」の11-12月号を読みました。

参加者はSさん、掌編「メリーのクリスマス」の作者の西村さとみさん、相川編集委員、奥山編集長、そして記録係の編集委員小川の5人です。

 

【特集「クリスマスをよむ」】

まずは論考について、奥山編集長から依頼の意図を含め、感想がありました。

「聖書の背景を知っているきどのりこさんに総論をお願いした。絵本などにはクリスマスの準備の楽しさや美しさを描いたものが多いが、きどさんの論考を読むと、厳しい現実を見据えて書くのが”文学”だと、あらためて思った。社会の底辺やクリスマスを祝えない子ども、クリスマスを平和に迎えられない子どもへのまなざしが光る。個人的にはウェストールとキャサリン・パターソンの描くクリスマスを紹介しているのがうれしい。とくにパターソンの「聖なる夜に」は良かった」

「水間千恵さんには、何故サンタクロースは男なのかというジェンダーの視点からのクリスマス論をお願いしたが、どうやってクリスマスを過ごしてきたかという歴史を見ていくと、そもそもサンタは男ではなかったという、性や人種を越えたところにあるクリスマスを論考のなかで提示してもらった。2本ともクリスマスの意味を深く問い直す、示唆に富む論考だった」

それを皮切りに、「水間さんの論文では、人々が求めているクリスマスの価値や意味が時代とともに変化して今に至っている過程が辿られていてとても勉強になりました。例えば、本来の宗教性が失われて商業的になっていく過程とか」

「(水間氏の)論文の入口が『若草物語』で、ほうびとしてのギフトが語られているのに注目した」「(きど氏の)論考はすごく勉強になった」等々、感想が語られました。「息子(大学生)がクリスマスは嫌いだという。クリスマスの意味がわからないのに浮き立つのに違和感があるらしい」という意外な、しかし、なるほどと肯ける感想も出て、それぞれのクリスマスを振り返ることにもなりました。

また、奥山編集長は「創作特集のように構成したかったので、短編、掌編、イラストエッセイ、マンガなどの創作はクリスマスをテーマに依頼し、詩・童謡・短歌・俳句は募集をした」と、詩歌募集の意図を語り、特集名の「よむ」は、「詠む」と「読む」をかけて、ひらがなにしたと。

そこで、出席していた西村さとみさんの掌編「メリーのクリスマス」の感想が参加者から出ました。

「よくあるパターンを外して、父が娘に会わずに帰るというラスト、それを猫は知っているという余白を残したところに物語の奥行きがある」「猫から見ているので想像する」「掌編は読み終わった後にどれだけ余韻を残すかが大切だと思う。この作品は読み終わった後に何かがある。温かいだけではない。夫婦の仲にはまだ解決していないものがあるという終わり方がいい」等々。

作者の西村さんからは、「依頼状を何度も読み返して、楽しいクリスマスではない、幸せばかりではないクリスマスを描こうと思った」というねらいが話されました。また、題名についての質問には、「メリーという猫を飼っていたので、メリークリスマスをもじってみようと思った」と。

作者のそのしかけは、ずばり決まっていましたね。

また、短編「咲子のあたらしい家」は、「一読したときはこれがクリスマス?と思ったが、溶け込めない主人公が(引っ越し先で)溶け込めたのがうまく出ている」、掌編「サンタクロースになりたかった鬼」は、「思わず笑った」という感想が出ました。

以前は掌編にも挿絵がついていました。しかし、挿絵がつくことでイメージが固定されることがあるのではないかと編集部で話し合い、挿絵をつけないことにしました。読者の想像の余地を残すことになっているでしょうか……

【入選した詩歌について】

本誌での詩歌の募集は今までほとんどありませんでした。当初、応募の出足がにぶかったので心配しましたが、最終的に応募数は40編を越えました。

テーマがはっきりしていたので、創りやすかったのかもしれません。

しかし、誰に向けて創ったのかという対象がはっきりしない応募作がありました。童謡は幼児から、短歌や俳句は小学生から十代・YAが読む対象ということで選考しました。

以下、メモになりますが、感想いろいろ。

〈童謡「よろしくサンタさん」〉

「大阪弁がずるいなあ。でもその独特の言い回しが読者に届く」「面白い曲がついてほしい」「楽しい童謡になりそう。( )のところはセリフでいうとか」「NHKのみんなの歌に採用されてほしい」

〈詩「クリスマスの朝に」〉

「サンタの立場でクリスマスの朝を迎えるという視点が斬新」

〈短歌「ねえ もみのき」〉

「サンタに呼びかける感じが上手い」

〈短歌「聖夜の森へ」〉

「映像が見えてくる」「タイトルがぴったりはまっている」「スキー場で迎えるクリスマスは若々しい感じがしていい」「80年代のトレンディドラマ的で、ロマンチックすぎる」「いや、短歌はどこか恥ずかしいものだ、これはこれでいい」

〈俳句「まちきれないよ!」〉

「題名どおり、待ちきれない感じが出ている」「銀色アラザンの使い方が上手い」「イメージできるのがいい」「定番で、きれいすぎる気もする」

〈俳句「クリスマス」〉

「アドベント(待降節)の雰囲気が感じられる」「ピザを配達するサンタに、生活のなかにあるクリスマスの実感がある」「題名にひとひねりほしい」

 

あべひろ子さんの童謡「わかるかな」に、友人で作家の田部智子さん(児文協会員)が曲をつけました。阿部仁哉さんのピアノ伴奏でオペラ歌手の小谷悠実さんが歌うその録画が、奥山編集長のもとに届いたので、共有画面にしてみんなで観ました。

「メロディーに言葉をのせると、世界が広がる」「童謡は詩とはちがう。童謡について教えられた」等々、感想が語られました。

この録画は日本児童文学者協会のホームページで公開しています。編集部のコラムの「メリー・クリスマス!」(2023年12月22日)をご覧になってください。

【イラストエッセイやポストカード】

奥山編集長から「ささめやゆきさんの『2010年のクリスマス』の原画はとてもいい。絵の具の厚みがきれい。印刷ではその厚みの質感が出ないのが残念」と。原画もモノクロだそうです。

編集長は「ハックルベリーブックス」という書店の店主でもあります。店内では常時「日本児童文学」コーナーを設けて、雑誌を宣伝しています。12月には北見葉胡さんの3枚の表紙原画も展示していました。ちなみに表紙原画はぜひにという方がいて完売したそうです。

今号にはおまけとして、表紙絵のポストカードをつけました。クリスマスカードとしても使えますし、飾っても素敵です。

 

【連載「趣海坊天狗譚」】

今号で最終回を迎えた「趣海坊天狗譚」は如何でしたかという編集長の問いかけに、「面白くてかかさず読んでいた」「セツに対して、天狗が表立って糾弾するのではないけれど、笑いながら脅すところが凄い」という声があがりました。

被差別問題を天狗という異界の視点から描いたファンタジーです。次がどうなるのかと楽しみにしていたという読者の感想が編集部に寄せられています。

 

【作家とLunch 「令丈ヒロ子」】

この連載も好評で、「毎回読んでいる。インタビューで書名の出てくる本も読んでいる」「その作家がどういう風に生きてきたか、その背景を知ることができる。これを読んで、そうか、そこからこの発想が出てくるのかと裏側を見ることができる」という感想が出ました。

関西圏の作家も取りあげようということで、今号は令丈ヒロ子さんです。京都在住の相川編集委員と編集長が、喫茶店文化のある大阪の商店街近くの仕事場にお邪魔しました。

そのまま神戸に足を伸ばして、2日後には岡田淳さんとカレーを食べながらインタビューをしたそうです。

それを聞くとますますカラーで見たいページですね。今のところは美味しそうな卵サンドもコンビニスイーツも残念ながらモノクロですが。

 

【創作時評やコラムなど】

今回のくぼ英樹さんの創作時評は、書き手としての立場がはっきりと出ていると好評でした。「場が透明化されやすい」という問題提起も、「どのように物語を展開すればよいかという根本的なところを突いている」という感想が出ました。

本誌にはいろいろなコーナー、コラムがあります。クリスマス特集でも「クリスマスあれこれ」をページのあちらこちらに散らしました。

「目当てのページの隣のコラムに思わず目を奪われるとか、偶然の出会いがあるのが、紙の雑誌の魅力ではないか。子どものつぶやきとか、小さなコラムは雑誌の芯といえるかもしれない」と相川編集委員から雑誌の構成についての感想がでました。

たしかに「子どものつぶやき」などは、児童文学の雑誌なので子どもの声を拾いたいという方針で作られたコーナーですが、子どもの本音がグサリと胸をえぐることもあります。

また、「『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(ロイス・ローリー著、島津やよい訳、新評論、2010年刊)のラストがクリスマスだ。読者に手渡す幸福のシンボルとしてクリスマスがある。今年、あるいは来年にクリスマス休戦があるのかどうか、注視していきたい」という意見が出たのを受けて、奥山編集長は「『百まいのドレス』(エレナー・エスティス作、石井桃子訳、ルイス・スロポドキン絵、岩波書店、2006年刊)もクリスマスの物語。いろいろな場面にクリスマスがある。今現在、平和なクリスマスが損なわれているということをこの特集で考えていただければ」としめくくりました。

しかしクリスマス休戦の動きもないうちに、元旦に能登半島で大きな地震、津波が起こりました。能登半島とその周辺地域での甚大な被害に心が痛みます。

被災された方々に心よりお見舞い申しあげます。被災地が早く復旧しますよう、心より祈念いたします。

どうかおだやかで平和な一年になりますように!    (記録係:小川英子)