『日本児童文学』(3・4月号と5・6月号)を読む会の報告

『日本児童文学』編集部

こんにちは、機関誌部ブログ担当の荒木です。
先月行われた<「日本児童文学」を読む会>の報告を小川英子さんに書いていただきました。雑誌「日本児童文学」への要望などがたくさん語られ編集委員にとっても刺激的な会でした。

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Zoomオンライン「日本児童文学」を読む会の報告
2023年6月29日(木)18:00~20:00 テーマ:3-4月号と5-6月号を読む
ホスト:奥山恵(編集長・評論家) ゲスト:間中ケイ子(詩人・編集委員)

今回は「遍在する詩歌」特集の3-4月号と年度回顧号の5-6月号の2冊を読む会でした。参加者はHさん、Sさん、KTさん、KJさん、創作時評担当のかわのむつみさん、荒木編集委員、ゲストの間中さん、奥山編集長、そして記録係の編集委員小川の9人です。
【3-4月号の特集から】
特集が「詩歌」なので、ゲストは詩人(&本誌編集委員)の間中ケイ子さん。
間中さんの「三辺律子さんの論考をはじめ、詩歌のあたらしさを感じる号でした。取りあげられている東直子さんの短歌は読みやすく、非日常ではあるが日常という不思議な感じをすくいとっている。詩形式で描かれている本の紹介もあり、詩歌の多面に触れる今号のみなさんの感想を楽しみにしています」との挨拶から、会は始まりました。
それではと口火を切って、KJさんが、「最近外国では詩形式の『詩人になりたいわたしX』などが受賞したりして、なぜ、評価されているのか、興味があった。ラップのようで読みやすいけれど密度の濃い物語になっていて、散文で書かれたものより、迫力がある。三辺さんがそのあたりを詳しく論じてくれた」と三辺律子さんの論考を高評価。
また、詩人の石津ちひろさんと歌人の松村由利子さんの対談も好評で、「お二人の言葉のとらえ方が豊かで広がりがある」「松村さんの「言葉の貯金」に心惹かれた」という声がありました。じつは司会の奥山恵編集長も、『「ラ」をかさねれば』(雁書館)、『窓辺のふくろう』(コールサック社)などの歌集を出している歌人です。
細谷建治さんの論考では「歌うことばは多くは語らない。(略)反戦の歌にもなれば、戦意高揚の歌にもなる」に注目が集まりました。その戦争と詩歌の関係を追求したおおぎやなぎさんの短編「イリーナ」は読み応えがありました。
【難解な短歌……】
「この特集があるので穂村弘さんの歌集を読んでみて、びっくりした、半分以上意味がわからない、でもこんな風に場面を切り取るのか、こんな何でもないことが作品になるのかと面白かった」と荒木編集委員が率直な感想を出したのがきっかけで、掲載の短歌・俳句に話題は移り、「ニルヴァーナは難しいけど、わかる」「さいとうしのぶさんのはホッとする」と感想がつづきました。
そのなかでも「飲みかけのペットボトルが増えてゆくこの子は飲めるこの子はやばい」をめぐり、「孤独感がある」「ひきこもっている?」「やり残したことが増えていく今の時代の危うさではないか」「ペットボトルをこの子と言っていて、飲みかけでもこの子はまだ飲めるが、こっちの子はもう日がたっていてやばいと受けとった」「あー、それは目からウロコの解釈だ」「ペットボトルに魂があるように、冷蔵庫にも魂があるととらえると面白いな、新しい現代のアニミズムかな」等、議論が沸きました。
斎藤倫さんの詩「ぼくかもしれない」はリズミカルで、朗読しても面白そうという感想もありました。「書き手の手を離れたら、読み手の感情に左右される、読み手の感情をのせて解釈してよいはず」という意見も出ました。
読者のみなさんは、これらの詩歌をどのように受けとられたでしょうか。
「扉」のかわりになる詩歌碑の写真ページも、身近にある詩歌という点で良かったと誉めていただきました。プロのカメラマンではありませんが、編集委員がそれぞれ、近所や旅行先で撮った写真なので、臨場感があったのでしょうか。
【創作時評・協会賞について】
創作時評の「幼年~中学年向け」担当の作家のかわのむつみさんは「泣きながら感想文を書いていた小学校の時のように、読みました」と、ユーモアたっぷりに告白。大量に出版される本のなかから、これぞという本を選ぶ困難さが語られました。でも「年度回顧で取りあげられた作品と重なっていたので、印象に残る本はやはり同じだと思った」とも。
すると、協会賞の選考もそれと同じという発言がありました。協会の賞は、最終選考に向けて、まず、文学賞委員会が200冊~300冊のなかから絞って絞っていくそうです。そのリストを誌面で公開してもいいのではないか、本を出版するのが困難な時代にやっと出版にこぎつけても、協会賞・協会新人賞の最終選考結果しかわからないのでは励みにならない、たいへんな思いをして読んでいる文学賞委員の名前も出ない、もっと選考過程を公表してもいいのではないかという意見がありました。さらに、各号の時評でとりあげた作品などの資料的なリストは、ホームページで保管したらどうだろうかという提案もありました。
時評や年度回顧で取りあげられた本と、協会賞になる本が重なっていないことがあるという話題も出ました(年度回顧の〆切と協会賞の時期がずれていることも一因です)。
年度回顧が話題になったので、そのまま5-6月号の「子どもの文学この一年」の特集についての話し合いに入りました。
【5-6月号の年度回顧座談会について】
今回、「児童文庫が取りあげられているのが良かった」という声がまずあがりました。また、「年度回顧を座談会という複数の視点でするのがいい」という意見も。「人気があって表紙がボロボロになるほど子どもたちが読んでいる児童文庫なのに、どうして今までとりあげられなかったのか」という疑問や「どんどん長くしてシリーズ化しているのにひっかかる」という意見も出ました。「児童文庫のイラストが可愛いから手にとり、読んでそこから長編の児童文学へいく子もいる」という話もありました。座談会のなかでも、そのような観点に触れています。「教員のなかにはイラストがマンガ的だといって敬遠する人もいるが、読めば児童文庫の内容は深い」という意見には賛同がありました。

2019年の年度回顧で、児童文庫を担当したというSさんは、「その頃児童文庫のレーベルを持っていた出版社は20社以上あり、児童文庫の書き下ろし作品が始まった頃よりも相当数増加して、多かったです。新規参入の出版社も増えていました。今回取りあげられているのも物語だけだが、児童文庫のジャンルは多岐にわたっている」と、もっと児童文庫に目を向ける必要を話しました。編集長からも「座談会に臨むために図書館で借りようとしたら無かったので、がっかりして苦笑する以外になかった、もっと図書館でも児童文庫に注目してほしい」との感想が出されました。
長谷川潮編集長のときの2005年に「軽装版は花ざかり」という特集をしたところ、「軽装版」という表現等に抗議がきたことがあったそうです。軽んじているつもりではなく、ソフトカバーの児童文庫が子どもたちに読まれている、無視できない動きがあることを特集で探ってみようという試みだったそうです。
ライトノベルも含めると大量に出版されているので、児童文庫の研究や評論が追いついていかない現状があります。このままでは児童文庫の書き手が離れてしまう、もっと発言の場を設けてほしいという切実な要望も出されました。編集部でも検討していきます。
【新連載や新コラムについて】
新連載や新コラムはいかがでしたかという編集長の問いかけに、「作家とランチはタイトルがいい、そのタイトルのようにふつうのインタビューではなく、もっとランチについての遊びを入れてほしい、ランチが展開していかない」と苦言も。
また、「インタビューで新藤悦子さんがトルコの話をしていたので、教えている小学校の教室で新藤さんのトルコを舞台にした新作を読んだ」と、Hさんが貴重な体験を報告。「イスラームの子が学年全体で10人いるので、豚肉を何故食べないのかとか、スカーフをいつもかぶっているとか、疑問に思うことが多かった。読み聞かせたら、イスラームの子たちにはわかってもらえたという嬉しさ、日本の子たちはわかったという嬉しさを共有した」と。雑誌がきっかけで二つの国の子どもたちの橋渡しができたのは、編集委員にとっても嬉しいことでした。
ランチはカラーで美味しく見せてよという意見も。いやいや、それは費用がかかるので無理です。編集長は、「このインタビューをまとめて本にしてくれる出版社があれば、そのときはカラーに」と約束を。
「作家とLunch~創作のひみつを探る」は人気の高い連載なので、ひょっとして夢ではないかもしれません。名乗りをあげる出版社はありませんか?
コラム「世界に開く窓」は「もっと世界の児童文学の動向を取りあげるべきだと考えていたので楽しみだ。1ページで世界の動きをフォローするのは難しいのでは。このページを反映させた特集も組んでほしい」と期待が寄せられました。
また、田中六大さんのマンガ「学校の怪談」が面白く、それぞれの学校の”階段”の思い出も語られました。
【誌面への要望いろいろ】
同人誌評についても、「今は同人誌の立ちあがり方がそれぞれちがう、ひとくくりにはできないのではないか」という意見が出ました。そこから、同人誌では同人仲間の作品をお互いに読み合いながら、自分の作品を読む目を育てるという良さがあることも語られました。いきなりコンクールで入賞してデビューすると、批評されることに慣れていないのでつまずくことがあるという話も。
そういう意味でも協会に入ったり、雑誌を読んだりしてつながっていくことは、励まされる面があるでしょう。
同人誌推薦作品の掲載誌面にその同人誌の書誌情報や書影を出してほしい、活字を「ユニバーサルフォント」にしてほしいという要望も出されました。
「UD(ユニバーサルデザイン)フォント」は誰にでも読みやすい活字として創られた新しいフォントです。編集部でも注目していて、ちょうど7-8月号(特集 いま、図書館を訪ねて)から使い始めたところでした。「扉」「アンケート いま、図書館で」「子どものつぶやき こんな図書館はいやだ!」の3カ所です。従来の活字と見比べてみてください。今後も徐々に増やしていく予定です。
編集部は読者にとってより身近な誌面をめざして、改革に努めています。読者のページへの投稿も随時受け付けています。
次回の「いま、図書館を訪ねて」特集の7-8号を読む会にも、みなさま、どうぞご参加ください。                  (記録係 小川英子)