「今の児童書 私の推し」第1回 しめのゆき
今月から始まりました、毎月一日にアップされる新連載の第一回目を担当するしめのゆきです。連載の概要は、子どもと読書の委員会のブログ↓にアップしておいたので、そちらをご参照くださいね。
7月から新企画始めます! – 日本児童文学者協会 (jibunkyo.or.jp)
わたしが推すのは、おおぎやなぎちかさんの『ヘビくんブランコくん』(幼年・低学年対象)です。横書きで、まるで外国の絵本のよう!
さて、体をピーンとのばすと誰よりも長いことが自慢のヘビくんは、みんなの嫌われ者。体が長すぎるせいでブランコに絡まってほどけなくなります。対して巻きつかれているブランコくんは人気者。みんなが乗りにきてくれるのを楽しみにしているのですが、嫌われ者のヘビくんが巻き付いているせいで、誰もが悲鳴をあげて逃げていきます。
やがてひょんなことから巻きがほぐれ、ブランコの反動でピョーンと、ヘビくんは飛んでいってしまうのです。ブランコくんへの約束を果たすため、そこからヘビくんの旅が始まります。
本作、擬人化されたファンタジーなのに、ヘビくんはとても「らしい」のです。画家さんの絵は愛らしいけれど、作者の頭の中の大きさも、実物そのまんまではないでしょうか。ありのままの自然体だからこその面白さが随所に散りばめられています。旅の途中で冬眠してしまうのですが、目覚めたときに、旅の目的を忘れているあたりも、さもありなん。道中では家族もできます。六月末の日本児童文学学校で作者が講師をしていた際に、「ヘビが『結婚』して『奥さん』をもらうという表現はこの物語には合わない」ので「家族」にしたと語っていらして、確かに、とうなずきました。
これを以前読んだときに俳句的だなと思ったことがありました。作者は、北柳あぶみという俳号で句集『だだすこ』を出版なさっている俳人でもあります。今回改めて再読し、ありのままを慈しむということが俳句に通じているのではないかと思った次第です。
ヘビくんに寄り添いながら、道中で起こるハプニングを楽しみながら、共に旅ができる本です。大切なものってなんだろな、自分は誰に会うためにがんばるだろう。そんなことを考える自分も、ヘビくんの旅の仲間です。
8月の担当は、田部智子さんです。田部さんの推し本、楽しみです!
『ヘビくんブランコくん』おおぎやなぎちか/作 井上コトリ/絵 アリス館 2022年10月初版発行